アニリン
識別情報
CAS登録番号
62-53-3
KEGG
C00292
特性
化学式
C6 H7 N
モル質量
93.13
示性式
C6 H5 NH2
外観
無色の液体
密度
1.0217 g/ml, 液体
融点
-6.3 °C , 267 K, 21 °F
沸点
184.13 °C , 457 K, 363 °F
水 への溶解度
3.6 g/100 mL at 20 ℃
酸解離定数 pK a
27 (共役酸 pKa = 4.87)
塩基解離定数 pK b
9.4202
粘度
3.71 cP (3.71 ;mPa·s at 25 ℃
熱化学
標準燃焼熱 Δc H o
-3394 kJ/mol
危険性
安全データシート (外部リンク)
ICSC 0011
EU分類
Toxic (T )Carc. Cat. 3 Muta. Cat. 3 環境に危険 (N )
NFPA 704
Rフレーズ
R23/24/25 , R40 , R41 , R43 , R48/23/24/25 , R68 , R50
Sフレーズ
(S1/2) , S26 , S27 , S36/37/39 , S45 , S46 , S61 , S63
関連する物質
関連する芳香族アミン
1-ナフチルアミン 2-ナフチルアミン
関連物質
フェニルヒドラジン ニトロソベンゼン ニトロベンゼン
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
アニリン (aniline) はベンゼン の水素 原子の一つをアミノ基 で置換 した構造を持つ、芳香族化合物 のひとつ。アニリンはIUPAC命名法 の許容慣用名であるが、系統名ではフェニルアミン (phenylamine) またはベンゼンアミン (benzenamine) となる。ほかに慣用名 としてアミノベンゼン (aminobenzene) がある。
染料、ゴムなどの化学製品、農薬や医薬品などを製造する際の中間物質として取り扱われている。
性質
無色透明 の液体 で可燃性である。水 には難溶だが、アルコール 、エーテル 、ベンゼン には易溶。弱塩基性 であり、塩酸 との中和 による塩(アニリン塩酸塩 )は水に溶ける。毒 性を持ち、接触、吸入により速やかに人体に吸収され、中毒 症状を起こす。中毒によってメトヘモグロビン が生成され、高メトヘモグロビン血症 によりチアノーゼ や呼吸困難 を起こし死に至ることもある。飲酒 によって症状が悪化するので注意を要する。ビタミンC の摂取が有効である。
さらし粉 を加えると赤紫色を呈するが、実験室ではニンヒドリン 水溶液を加えて紫系色変化から確認することがある。
また、酸化させると黒くなり、染料や顔料に使われている(アニリンブラック )。無水酢酸を加えるとアセトアニリド になる。ベンゼンスルホン酸 を加えるとアニリンベンゼンスルホン酸塩になる。
用途
単独の素材として用いられることは少なく、染料 、ゴム などの化学製品、農薬 や医薬品 などを製造する際の中間物質として取り扱われている。
引火点 70℃・発火点 615℃で、消防法 上の第4類危険物 (第3石油類)に指定されている。毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている[ 1]
2015年度日本国内生産量は 369,337t、消費量[ 注釈 1] は 292,251t 、出荷量は、79,510tである[ 2] 。なお2016年以降は、数字秘匿(生産者が一定数以下になると、個々の企業の数値が推測可能になるため、公表されなくなる)のため不明。
歴史
1826年 、O.ウンフェルドルベン はインディゴ を強く熱することで新しい有機化合物を得、これを「クリスタリン」と名付けた。1841年 、K. フリッツェも同様の実験を行い、インディゴの原料となる植物「アニル (anil)」から「アニリン」の名を与えた。またこれと別に1834年 にはルンゲ がコールタール を蒸留した液体から新規物質を取り出し、「キアノール」と命名していた。後にA・W・ホフマン が彼らの実験を追試し、元素分析を行うことでこれらが全て同一の物質、アニリンであることを証明した。
1856年 、当時18歳の少年化学者であったウィリアム・パーキン は、マラリア の特効薬であるキニーネ を合成しようとアニリンを酸化する反応を試すうち、偶然紫色の染料(モーブ )を作り出した[ 3] 。彼は資産家であった親を説得し、この染料を作る工場を設立した。これが、以後数百種類製造されることになる合成染料の第1号である。
合成法
アニリンの合成法はいくつか知られているが、工業的な合成において代表的な Béchamp 還元法と接触還元法について述べる。いずれもニトロベンゼン を還元 (下式)することで合成する。
ニトロベンゼンの還元の一般式
Béchamp 還元法
鉄 と酸 を用いてニトロベンゼンを還元し、アニリンを合成する方法である。塩酸 を用いる場合、途中で生じる塩化鉄(II) はさらに酸化されて塩化鉄(III) になり、それらが反応して四酸化三鉄 になると同時に塩酸が再生されるので、塩酸は触媒 量でよい(基質の 2–3%)。
C
6
H
5
NO
2
+
3
Fe
+
6
HCl
⟶ ⟶ -->
C
6
H
5
NH
2
+
3
FeCl
2
+
2
H
2
O
{\displaystyle {\ce {{C6H5NO2}+ {3Fe}+ 6HCl -> {C6H5NH2}+ {3FeCl2}+ 2H2O}}}
C
6
H
5
NO
2
+
6
FeCl
2
+
6
HCl
⟶ ⟶ -->
C
6
H
5
NH
2
+
6
FeCl
3
+
2
H
2
O
{\displaystyle {\ce {{C6H5NO2}+ {6FeCl2}+ 6HCl -> {C6H5NH2}+ {6FeCl3}+ 2H2O}}}
FeCl
2
+
2
FeCl
3
+
4
H
2
O
⟶ ⟶ -->
Fe
3
O
4
+
8
HCl
{\displaystyle {\ce {{FeCl2}+ {2FeCl3}+ 4H2O -> {Fe3O4}+ 8HCl}}}
接触還元法
ニッケル や銅 といった水素化触媒を用いて、水素 ガスでニトロベンゼンをアニリンへ還元する方法であり、高い選択性を示す。
C
6
H
5
NO
2
+
3
H
2
⟶ ⟶ -->
C
6
H
5
NH
2
+
2
H
2
O
{\displaystyle {\ce {C6H5NO2\ + 3H2 -> C6H5NH2\ + 2H2O}}}
アニリンの誘導体
アニリンの誘導体 (アリールアミン類)は医薬にも数多く見られ、またトリアリールアミンは有機EL などの材料として重要な化合物群である。しかしこれらの構造は、以前は有力な合成法があまり知られていなかった。近年ハロゲン化アリールとアミン類を直接カップリングする反応(バックワルド・ハートウィッグアミノ化 反応、ウルマン反応 )の研究が進み、容易に多くの誘導体が合成できるようになっている。
2,4-ジメチルアニリン(asym -m -キシリジン)は農薬 であるアミトラズ (英語版 ) の抵抗性の分解物であり、遺伝子毒性 (英語版 ) 、奇形性 、発癌性 を示す[ 4]
。
おもな誘導体
脚注
注釈
^ 生産動態統計における、消費は国内全体における消費ではなく、「自工場で他の製品の原材料用、加工用、燃料用として消費」であることに注意
出典
^ 毒物及び劇物取締法 昭和25年12二月28日 法律203号 第2条 別表第2 第3号
^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編 2015年計による
^ “化学はじめて物語 ”. 日本化学工業協会. 2020年2月10日 閲覧。
^ Gorrod, J. W.; Gooderham, N. J. The in vitro metabolism of N,N-dimethylaniline by guinea pig and rabbit tissue preparations. Eur. J. Drug Metab and Pharmakin. 1981 6 195-206.
関連項目
外部リンク