ウキゴリ(浮鮴、浮吾里、学名 Gymnogobius urotaenia )は、スズキ目ハゼ科に分類される魚の一種である。但しスミウキゴリ G. petschiliensis、シマウキゴリ G. opperiens、および琵琶湖固有種のイサザ G. isaza という3種の類似種が存在し、これらの総称として使われることもある(後述)。
日本とその周辺地域に分布する比較的大型のハゼで、川の中流・下流域で見られる。日本での地方名としてはゴリ(各地でのハゼ類の混称)・ゴダッペ(北海道)・エビグズ(山陰)などがある。
特徴
成魚は全長13cmに達し、日本産のハゼとしてはかなり大型の部類である。体は円筒形だが頭部は上から押しつぶされたように縦扁し、逆に尾部は側扁する。体色は半透明の黄褐色で、全身に黒褐色の斑点がある。背中に5-6個の鞍状斑が並ぶが、第一背鰭の部分には斑点がない。脇腹から尾にかけて6-7個の大きな黒褐色斑と側線に沿って小さな黒点が並ぶ。第一背鰭の後半部と尾鰭の付け根に明瞭な黒斑点が一つずつある。第二背鰭と尾鰭は白黒の縞模様となる。鱗は細かく、手で触れるとぬめりがある。
樺太・北海道から九州・朝鮮半島まで分布する。択捉島・国後島・隠岐諸島・屋久島といった周辺島嶼からも記録されている。幼魚期を海で過ごす通し回遊を行うため、離島の川にも分布する。その一方で海の代わりに湖沼などで成長する陸封型も存在する。
成魚は川の中流域から汽水域にかけて生息し、流れが緩やかで水草が生えている区域に多い。成魚は一般的なハゼ類と同様に水底に腹をつけて生活するが、全長数cm程度の若魚は水底から離れて中層をフワフワと泳ぐ習性がある。標準和名「ウキゴリ」もこの習性に因んだものである。食性は肉食性で、昆虫・甲殻類・小魚などの小動物を捕食する。
春の産卵期には成魚の体色が黒っぽくなり、さらにメスは腹部が黄色になる。オスは川底の石の下に産卵室を作り、メスを呼び込んで産卵させる。メスは産卵室の天井に産卵し、卵はブドウのような房状で天井から多数ぶら下がる。産卵・受精後はオスが巣に残り、孵化までの10日間ほど卵を保護する。仔魚は全長5-6mmほどで、川の流れに乗って湖沼や海に下り、全長3cmほどになるまで成長する。成長した若魚は春から夏にかけて群れを成して川を遡上する。
通常は漁業対象にならないが、他の小魚と混獲されて佃煮や卵とじなどに利用されることがある。
類似種
ウキゴリにはスミウキゴリ、シマウキゴリという2種の類似種が存在する。これらの幼魚は同定が難しいが、成魚は第一背鰭の黒斑と脇腹の模様で区別がつく。ウキゴリ属 Gymnogobius の中では、この3種が比較的大型で淡水性が強い特徴がある。嘗てこの3種は「ウキゴリ」1種の種内変異と見做され、ウキゴリが「ウキゴリ淡水型」、スミウキゴリが「ウキゴリ汽水型」、シマウキゴリが「ウキゴリ中流型」と呼ばれていた。
また琵琶湖固有種のイサザは、ウキゴリの陸封個体群から分化したものと考えられている。
- スミウキゴリ G. petschiliensis (Rendahl,1924)
- スミウキゴリ(墨浮鮴、floating goby、学名 Gymnogobius petschiliensis )は、全長10cmほど。第一背鰭に黒斑がない点で他の2種と容易に区別できる。また体側の斑点は脇腹が不明瞭で尾に近い3-4個ほどが明瞭になる。北海道南部から屋久島・壱岐・対馬・朝鮮半島に分布し、やや南方系の分布を示す。川の下流域に集中して生息する。ウキゴリと異なり陸封型は知られていない。
- シマウキゴリ G. opperiens Stevenson,2002
- シマウキゴリ(縞浮鮴、学名 Gymnogobius opperiens )は、全長10cmほど。背中の鞍状斑が多く、一つが第一背鰭を横切る。第一背鰭後半部に黒斑があるが、ウキゴリほど大きくない。分布域は本州北部(福井・茨城以北)・北海道・朝鮮半島で、北方系の分布を示す。成魚は流れがある川の中流域に多く生息する。スミウキゴリと同じく陸封型は知られていない。
- イサザ G. isaza (Tanaka,1916)
- 全長8cmほどで他種より小型。斑紋が全体的に不明瞭で尾柄が長い。琵琶湖固有種で湖から出ずに生活する。若魚のみならず成魚も採餌の際に中層まで浮上する。
脚注
参考文献
関連項目