キョウチクトウ (夾竹桃、学名 : Nerium oleander var. indicum )は、キョウチクトウ科 キョウチクトウ属 の常緑 低木 もしくは常緑小高木 。庭園樹や街路樹に使われるが、中毒事例がある危険な有毒植物 としても知られており、強力な毒成分(強心配糖体 のオレアンドリン など)が含まれ、キョウチクトウを植えた周りの土壌や燃やして出た煙にも毒性が残る(参照:#毒性 、#薬用 )。
名称
中国 名は夾竹桃[ 2] 。和名 のキョウチクトウ は、漢名 の「夾竹桃」を音読みにしたのが語源 で、漢名は葉 がタケ のように細く似ていること、花 がモモ に似ていると中国人が思ったことに由来する。属名 の Nerium は、ギリシア語 で「湿った」を意味し、この木が湿気を好むと考えられたことに由来し[ 注 1] 、もともとは近縁のセイヨウキョウチクトウ (学名: N. oleander )が湿地に生えることからきている。
分布
インド 原産。日本へは、中国 を経て江戸時代 中期の享保 年間(1716 - 1736年)、あるいは寛政 年間(1789 - 1801年)に渡来したといわれる。暑さや乾燥に強く、世界中では乾燥地で繁茂していて、大面積を占有して大きな藪をつくる。原産のインドでは、河原や道路脇などに生えている。
特徴
常緑広葉樹 の低木。高さは数メートル になり、枝分かれが多い。葉 は互生 あるいは3枚が輪生 し、針状の葉が重なり合って枝を覆うように生える。葉身 は細長く光沢のある長楕円形 で、両端がとがった形で厚い。葉の裏面には細かいくぼみがあり、気孔 はその内側に開く。
花は、熱帯地域ではほとんど一年中咲くが、日本では夏期の6 - 9月ごろに開花する。花弁 は基部が筒 状、その先端で平らに開いて五弁に分かれ、それぞれがややプロペラ 状に曲がる。花色は淡紅色がふつうだが、紅色、黄色、白など多数の園芸品種 があり、八重咲き や大輪咲きの種もある。数少ない夏の花木で、園芸種の数も多い。
日本では適切な花粉媒介者 がいなかったり、挿し木 で繁殖したクローン ばかりということもあって、受粉 に成功して果実 が実ることはあまりないが、ごくまれに果実が実る。果実は細長い袋状で、熟すると縦に割れ、中からは長い褐色の綿毛 を持った種子 が出てくる。
枝を折ったときに出る白い汁は有毒である。有毒 な防御物質 を持つため、食害 する昆虫 は少ないが、日本では鮮やかな黄色のキョウチクトウアブラムシ が、新しく伸びた枝 に寄生 し、また、新芽 やつぼみ をシロマダラノメイガ の幼虫 が、糸 で綴って内部を食べる。九州 の一部や南西諸島 では、キョウチクトウスズメ (スズメガ科 )の幼虫が、葉を食べて育つ。
毒性
キョウチクトウは優れた園芸植物 ではあるが、強い経口毒性 があり、野外活動 の際に調理 に用いたり、家畜 が食べたりしないよう注意が必要である。花、葉、枝、根 、果実すべての部分と、周辺の土壌 にも毒性がある。生木 を燃やした煙も有毒であり[ 9] 、毒成分は強心配糖体 のオレアンドリン など[ 10] (#薬用 も参照)。腐葉土 にしても1年間は毒性が残るため、腐葉土にする際にも注意を要する。
中毒症状 は、嘔気・嘔吐(100%)、四肢脱力(84%)、倦怠感(83%)、下痢(77%)、非回転性めまい(66%)、腹痛(57%)などである[ 11] 。治療法はジギタリス中毒 と同様である。
古代インドでは、キョウチクトウの有毒性を利用して、堕胎や自殺に用いられた。
中毒事例
日本では、1877年(明治10年)の西南戦争のときに、官軍の兵が折った枝を箸 代わりに利用し、中毒した例がある[ 9] [信頼性要検証 ] 。
フランス でキョウチクトウの枝を串焼き の串 に利用して死亡者が出た例がある[ 9] [ 12] [信頼性要検証 ] 。
1980年に、千葉県の農場で牛 に与える飼料 の中にキョウチクトウの葉が混入する事故があり、この飼料を食べた乳牛 20頭が中毒をおこし、そのうちの9頭が死亡した。混入した量は、牛1頭あたり、乾いたキョウチクトウの葉約0.5g程度だったという[ 13] 。家畜がキョウチクトウを食べることで中毒症が問題になる。致死量 は乾燥葉で50mg/kg(牛、経口)という報告がある[ 14] [ 15] 。
福岡市 では、2009年12月、「毒性が強い」として市立学校に栽植されているキョウチクトウを伐採する方針を打ち出した[ 16] が、間もなく撤回している[ 17] 。
2017年、香川県高松市 内の小学校の校庭に植えられたキョウチクトウの葉を3枚から5枚食べた2年生の児童2人が、吐き気や頭痛などの中毒症状を起こし、一時入院した[ 18] 。
アレルギー
利用
植栽
乾燥 や大気汚染 に強いため、工業地帯や市街地緑化の街路樹 などに利用される。神奈川県川崎市 では、長年の公害 で他の樹木が衰えたり枯死したりする中で、キョウチクトウだけはよく耐えて生育したため、現在に至るまで、同市の緑化樹 として広く植栽 されている。高速道路 沿いの植栽でもよく見られ、米国 カリフォルニア州 のヨセミテ国立公園から州都サクラメントまでのハイウェイの両脇には、延々とキョウチクトウが植栽されている。さらに、広島市 はかつて原爆 で75年間草木も生えないといわれたが、被爆焼土にいち早く咲いた花として原爆からの復興のシンボルとなり広島市の花に指定された。
燃えにくく火に強いため(防火樹)としても知られる[ 20] 。
薬用
オレアンドリン
全体に有毒であるが、葉は強心剤や利尿剤になり、麻酔 にも使われる。キョウチクトウの全部位には、オレアンドリンなど様々な強心配糖体 が含まれており、強心作用 がある[ 10] 。ほかに利尿作用 もある。しかし、同種は非常に毒性が強いため、素人は処方すべきでない。
オレアンドリン (oleandrin 、C32 H48 O9 )は、キョウチクトウに含まれる強心配糖体で、分子量 576.73、融点 250℃、CAS登録番号 は465-16-7である。ジギタリス に類似の作用を持つ。
ヒト の場合、オレアンドリンの致死量は0.30mg/kgで、青酸カリ をも上回る[ 21] [ 22] 。
文化
『キョウチクトウ』ゴッホ、1888年
キョウチクトウの花言葉 は、「危険な愛」「用心」とされる。
文学
絵画
楽曲
市町村の花・木
このほか、長崎県佐世保市 でも市の花に指定されていたが、毒性を理由として指定を取り消されている[ 17] 。
スペインでの伝承
母と二人暮らしの貧しい少女が熱病で倒れた。母はあらゆる手段を尽くして娘の看病にあたったが、とうとう自分も疲れ果てて、聖ヨセフ に祈った。何日も祈り続けたある日、突然部屋に光が差した。そして見知らぬ人影がみずみずしい夾竹桃の一枚を娘の胸に置き、ふっと消えてしまった。母は「聖ヨセフだわ」と思った。その後、少女は全快した。夾竹桃は別名「聖ヨセフの花」と呼ばれている[ 23] 。
近似種
日本には同属は分布していない。琉球諸島 には別属のミフクラギ (別名オキナワキョウチクトウ、Cerbera manghas )が分布する。花は白くて、ややキョウチクトウに似ているが、多肉質の葉や大きな実をつけるので、印象はかなり異なる。
キョウチクトウ属
キョウチクトウ属 (キョウチクトウぞく、学名 : Nerium )は、キョウチクトウ科 の属 の一つ。
セイヨウキョウチクトウ Nerium oleander
キョウチクトウ Nerium oleander var. indicum
ヤエキョウチクトウ Nerium oleander var. indicum 'Plenum'
脚注
注釈
^ しかし、実際には乾燥に大変強い樹種で知られている。
出典
^ Lansdown, R.V. (2013). Nerium oleander. The IUCN Red List of Threatened Species 2013: e.T202961A13537523. doi :10.2305/IUCN.UK.2013-1.RLTS.T202961A13537523.en . Downloaded on 06 August 2019.
^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Nerium oleander L. var. indicum (Mill.) O.Deg. et Greenwell キョウチクトウ(標準) ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList) . 2023年4月10日 閲覧。
^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Nerium indicum Mill. キョウチクトウ(シノニム) ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList) . 2023年4月10日 閲覧。
^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Nerium oleander L. var. indicum (Mill.) O.Deg. et Greenwell 'Plenum' ヤエキョウチクトウ(標準) ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList) . 2023年4月10日 閲覧。
^ a b c 嶋一徹. “野外活動(野外調査)における安全について ” (ppt). 岡山大学農学部生態系保全学講座土壌生態管理学. pp. 12. 2009年12月12日 閲覧。
^ a b Khan, Ibraheem; Kant, Chandra; Sanwaria, Anil; Meena, Lokesh (2010). “Acute Cardiac Toxicity of Nerium oleander/indicum Poisoning (Kaner) Poisoning”. Heart Views 11 (3): 115–116. doi :10.4103/1995-705X.76803 .
^ 門田奈実, 田渕真基, 清水貴志 ほか、[1] 『日本集中治療医学会雑誌』 2012年 19巻 4号 p.685-686, doi :10.3918/jsicm.19.685
^ 身の回りに潜む植物毒の恐怖! Research Request No.0230 2002/4/21 日本テレビ、特命リサーチ [リンク切れ ]
^ 黒毛和種繁殖雌牛群に発生したキョウチクトウ混入粗飼料給与によるオレアンドリン中毒事例 大分県家畜保健衛生並びに畜産関係業績発表会集録 60, 35-43, 2011 (PDF )
^ Namera A.、et al. 「Rapid quantitative analysis of oleandrin in human blood by high-performance liquid chromatography」『日本法医学雑誌』第51巻第4号、日本法医学会 、1997年、315-318頁、PMID 9366138 。
^ 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム (2004年5月10日). “キョウチクトウ ”. 写真で見る家畜の有毒植物と中毒 . 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所. 2009年12月11日 閲覧。
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^ a b “学校のキョウチクトウ伐採 福岡市教委、一転見送り 「安易に切らないで」指摘受け ”. 西日本新聞 (2009年12月17日). 2009年12月17日 閲覧。 [リンク切れ ]
^ “キョウチクトウで小学生2人が食中毒 高松 ”. 朝日新聞デジタル . 朝日新聞 (2017年12月16日). 2018年3月2日 閲覧。
^ 花粉症保健指導マニュアル-2007年3月改訂版- [リンク切れ ] - [2] (PDF ) [リンク切れ ]
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^ “毒草:キョウチクトウ ”. 深山毒草園:毒草一覧 . 2012年3月28日 閲覧。
^ 古泉秀夫 (2007年12月10日). “夾竹桃(Oleandere)の毒性 ”. 医薬品情報21 . 2012年3月28日 閲覧。
^ 瀧井康勝『366日 誕生花の本』日本ヴォーグ社、1990年11月30日、228頁。
参考文献
関連項目
外部リンク