コメツガ(米栂[3]、学名: Tsuga diversifolia)は、マツ科ツガ属の常緑針葉樹。日本の固有種[1]。山岳地に生える。
名前と分類
和名のコメツガの由来は「葉が米粒のようだから」と説明されることが多い。学名の種小名 diversifolia は「様々な葉」という意味であり、恐らくは葉の大きさが不揃いであることに由来する[要出典]。なお、ベイツガと呼んだ場合は米国(アメリカ)産のツガ属樹木という意味で使い、本種とは直接的なかかわりはない。
分布
本州の青森(八甲田山)から紀伊半島(大峰・大台ヶ原)、 四国(石鎚山・剣山)、九州(祖母山)までの山岳地帯に分布する。ツガ(学名: Tsuga sieboldii)よりも、より標高が高いところに自生する[3]。北海道には分布しないが、ツガ属の化石は見つかっており絶滅したものと考えられている[要出典]。
形態
常緑針葉樹の高木で、高さは20メートル (m) から、大きいものでは30 mにも達する場合がある。樹形は枝を横に広げて、広い円錐形になる[3]。樹皮は灰褐色から赤褐色で縦に裂け[3]、トウヒ属とやや似ている。樹皮の剥がれ方は、ツガに比べてやや粗い[3]。若い枝は有毛である[3]。
葉は線形で長短があり[3]、モミ属と似ている(ただし葉の付き方がモミ属とは異なる)。冬芽は葉芽、花芽とも小さな卵形で、ツガに比べて丸みがある[3]。
花期は4 - 5月[3]。球果は長さ1.5 - 2.5センチメートル (cm) ほどと小型で、枝先にやや下を向いてぶら下がる。
生態
他のマツ科針葉樹と同じく、菌類と樹木の根が共生して菌根を形成している。樹木にとっては菌根を形成することによって菌類が作り出す有機酸や抗生物質による栄養分の吸収促進や病原微生物の駆除等の利点があり、菌類にとっては樹木の光合成で合成された産物の一部を分けてもらうことができるという相利共生の関係があると考えられている。菌類の子実体は人間がキノコとして認識できる大きさに育つものが多く、中には食用にできるものもある。土壌中には菌根から菌糸を通して、同種他個体や他種植物に繋がる広大なネットワークが存在すると考えられている[4][5][6][7][8][9]。
ツガ(Tsuga sieboldii)やモミ(Abies firma)が暖温帯と冷温帯の中間付近の気象的なニッチのある場所に出現するといわれることが多い(中間温帯などと呼ばれ、研究者によって認否の差のある理論である[10])のに対し、コメツガはより寒冷な地域(標高)に分布し、主な範囲は冷温帯上部から亜高山帯にかけてである。
ツガ属やモミ属の多くの種と同じく本種も典型的な陰樹であり、林内に形成されたギャップにおいて稚樹が成長し更新していく。条件の悪い所では倒木更新(nurse log)を採ると見られている[11]。コメツガは土壌の発達が比較的悪い場所でも生育でき、そのような場所で優勢になりやすいことがしばしば指摘される樹種である[12]
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山頂付近に成立したコメツガ群落(画面中央下)
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土壌の発達の悪い岩場で優勢になるコメツガ
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コメツガの純林
保全状況評価
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[1]
IUCNレッドリストでは1998年版で軽度懸念 (Lower Risk/least concern) に評価され、2013年版では改めて軽度懸念 (Least Concern) とされている[1]。
脚注
- ^ a b c d e f Katsuki, T. & Luscombe, D. (2013). Tsuga diversifolia. The IUCN Red List of Threatened Species 2013: e.T42433A2979949. doi:10.2305/IUCN.UK.2013-1.RLTS.T42433A2979949.en. Downloaded on 19 June 2021.
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Tsuga diversifolia (Maxim.) Mast. コメツガ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年7月14日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 251
- ^ 谷口武士 (2011) 菌根菌との相互作用が作り出す森林の種多様性(<特集>菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性). 日本生態学会誌61(3), p311-318. doi:10.18960/seitai.61.3_311
- ^ 深澤遊・九石太樹・清和研二 (2013) 境界の地下はどうなっているのか : 菌根菌群集と実生更新との関係(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る). 日本生態学会誌63(2), p239-249. doi:10.18960/seitai.63.2_239
- ^ 岡部宏秋,(1994) 外生菌根菌の生活様式(共生土壌菌類と植物の生育). 土と微生物24, p15-24.doi:10.18946/jssm.44.0_15
- ^ 菊地淳一 (1999) 森林生態系における外生菌根の生態と応用 (<特集>生態系における菌根共生). 日本生態学会誌49(2), p133-138. doi:10.18960/seitai.49.2_133
- ^ 宝月岱造 (2010)外生菌根菌ネットワークの構造と機能(特別講演). 土と微生物64(2), p57-63. doi:10.18946/jssm.64.2_57
- ^ 東樹宏和. (2015) 土壌真菌群集と植物のネットワーク解析 : 土壌管理への展望. 土と微生物69(1), p7-9. doi:10.18946/jssm.69.1_7
- ^ 中静透 (2003) 冷温帯林の背腹性と中間温帯論. 植生史研究11(2), p.39-43. doi:10.34596/hisbot.11.2_39
- ^ 中村俊彦 (1991) 亜高山帯針葉樹林の遷移と更新. 植生史研究(7(, p.3-14. doi:10.34596/hisbot.07.0_3
- ^ 吉川正人・福嶋司 (1997) 奥日光の亜高山帯域における土石流堆積地上の遷移と堆積物の二次移動との関係. 植生学会誌14(2), p.91-104. doi:10.15031/vegsci.14.91
参考文献
関連項目