|
この項目では、シジュウカラの1種について説明しています。
|
シジュウカラ(四十雀、Parus minor)は、シジュウカラ科シジュウカラ属に分類される鳥類。
和名は地鳴きの「ジジジッ」が「シジュウ」に聞こえることに由来する。
分布
日本を含む東アジア、ロシア極東に分布する。
近縁種の通称ヨーロッパシジュウカラ(Parus major)が、ユーラシア中部・西部と北アフリカに生息する。アムール川流域では2種が交雑なしに共存している[4]。
日本では4亜種が留鳥として周年生息する。
形態
全長は約14.5cm[5][6](13 - 16.5cm)で、スズメぐらいの大きさである。翼開長は約22 cm[6][7]。体重は11-20g[3]。種小名 minorは「小さな」の意だが、シジュウカラ科の中では大型種である。
体表を覆う羽毛は、上面は青味がかった灰色や黒褐色、下面は淡褐色である。頭頂は黒い羽毛で覆われ、頬および後頸には白い斑紋が入るが、喉から胸部にかけて黒い斑紋に分断され胸部の明色部とは繋がらない。喉から下尾筒(尾羽基部の下面)にかけて黒い縦線が入る。翼の色彩は灰黒色。大雨覆の先端に白い斑紋が入り、静止時には左右1本ずつの白い筋模様の翼帯に見える。
嘴の色彩は黒い。足の色彩は淡褐色。
オスは喉から下尾筒にかけての黒い縦線が、メスと比較してより太い。幼鳥はこの黒い線縦が細く不明瞭であり、また頬および下面に黄色みがある[8]。
ユーラシア中部・西部のP. majorは腹部が黄色いが、シジュウカラ P. minorの腹部は白い。また、イシガキシジュウカラなど日本の南部に生息する亜種では背の黄色みがなく、喉から胸部にかけての黒い斑紋は太いなど、他の亜種に比べて全体に黒っぽい。
-
オス
下面の黒い縦線が太い
-
メス
下面の黒い縦線が細い
-
背中
-
背中
生態
ごく普通に見られ、市街地の公園や庭などを含む平地から、標高の低い山地の林、湿原などに生息し、日本では小笠原諸島を除く全国に分布する。通常は渡りを行わないが、寒冷地に分布する個体や食物が少ない時には渡りを行うこともある。非繁殖期の秋季から冬季には数羽から10数羽、ときに数十羽の群れとなり[8]、シジュウカラ科の他種も含めた小規模な混群も形成する。色々な場所に巣を作り、巣箱も使う。
さえずりは甲高いよく通る声で、姿が双眼鏡を使っても見えないほどの遠くの距離で鳴いていても聞こえてくるくらい声量がある。高い木などに止まり、「ツーピツーピ」「ツィピーツィピーツィピー」「チュチュパーチュチュパー」「パチュパチュパチュパチュパチュパ」「ツーピピッ」「ジャージャー」など20種類ほどあり、同じさえずりを数回繰り返す。近くにいる天敵の種類(蛇か猛禽類かなど)により鳴き声の組み合わせを変えて仲間に警告するといった言語能力を持つとして、研究対象になっている[9](後述)。
食性は雑食で、果実、種子、昆虫やクモなどを食べる。地表でも樹上でも採食を行う。
樹洞やキツツキ類の開けた穴の内側などに[10]、メスが、主にコケを組み合わせ[8]、覆うように獣毛やゼンマイの綿、毛糸などを敷いた椀状の巣を作り[11]、日本では4 - 7月におよそ7 - 10個の卵を年に1 - 2回に分けて産む。卵の大きさは1.55 - 1.85cm×1.25 - 1.40cmで、色は白色に小さな赤褐色や灰色の斑点がまばらにつく[8]。メスのみが抱卵し、抱卵期間は12 - 14日[8]。雛は孵化してから16 - 19日で巣立つ[8]。
同類などとのコミュニケーション
動物言語学における鳴き声の研究
シジュウカラは、異なる鳴き声を使い分けて同種の他個体とコミュニケーションをとっており、鳴き声の組み合わせ、順番による「文法」があると推定され、言語学(動物言語学)の研究対象になっている[9]。鈴木俊貴(2024年3月時点では京都大学所属)は2008年に長野県軽井沢町の森でシジュウカラの巣箱を見回っている時、蛇が樹上に這いあがって来るのに気付いたシジュウカラが「ジャージャー」という、他の外敵を警戒するのとは違う鳴き声を出していることに気づき、捕まえた蛇を他の巣箱に近づけて同じ鳴き声を出させて録音して流すなど実験や研究を重ねた[9]。シジュウカラは冬季にコガラと群れを成すこともあるが、鳴き声の異なるコガラとお互いにそれぞれの言語を学び合い理解することができる上、一部をコガラ語に変えた、ルー語のような文章でも文法があっていれば意味を理解できることも明らかになっている[9]。[12]。鈴木によると、2024年時点で、シジュウカラが伝える「文」は200種類以上が判明している[9]。
シジュウカラは警戒を告げる鳴き声を聴き取った際に、ただ機械的に周囲へ気を配るようになる訳ではなく、合図の意味を脳内でイメージを作り出して理解し直していることが判明している[13]。
2016年、鈴木俊貴らのチームは、こうした研究結果を『ネイチャー コミュニケーションズ』に発表した[14][15]。2020年にはNHK『ダーウィンが来た!』第635回でも放映された[16]。
ジェスチャー
鈴木俊貴(2023年度からは東京大学先端科学技術研究センター所属[17])らの研究チームは、シジュウカラが翼をパタつかせて、つがいに巣箱・巣穴へ先に入るよう伝えるなどジェスチャーを使っているという研究成果を2024年3月25日公開の『Current Biology』オンライン版で発表した[18]。ジェスチャーは従来、ヒトや類人猿のみに確認されていたが、研究が進めばシジュウカラを含めた他の動物も使っていることが解明される可能性がある[18]。
分類
以前はParus majorの亜種とされ、P. majorの和名がシジュウカラとされていた。2016年時点でもBirdlife InternatinalではParus majorからの分割を認めていない(そのためBirdlife Internatinalに準拠した国際自然保護連合(IUCN)でもP. majorに含まれており本種のレッドデータも存在しない)[19]。
以下の分類・分布(日本産亜種は『日本産鳥類目録 改訂第7版』に従う)はIOC World Birdlist(v8.1)に、和名は『日本産鳥類目録 改訂第7版』に従う[2]。
- Parus minor minor Temminck & Schlegel, 1848 シジュウカラ
- アムール川流域から朝鮮半島、中華人民共和国の長江流域・四川省にかけて、日本(北海道、本州、四国、九州、壱岐、隠岐、対馬、伊豆諸島、五島列島、佐渡島)、サハリン[2]
- P. m. artatus・P. m. kagoshimae・P. m. wladiwostokensisはシノニムとされる
- Parus minor amamiensis Kleinschmidt, 1848 アマミシジュウカラ
- 日本(奄美大島、徳之島)[2]
- Parus minor commixtus Swinhoe, 1868
- 中華人民共和国南部、ベトナム北部
- Parus minor dageletensis Kuroda & Mori, 1920
- 大韓民国(鬱陵島)
- Parus minor nigriloris Hellmayr, 1900 イシガキシジュウカラ
- 日本(石垣島、西表島)
- Parus minor nubicolus Meyer de Schauensee, 1946
- タイ王国北部、ミャンマー東部、インドシナ半島北西部
- Parus minor okinawae Hartert, 1905 オキナワシジュウカラ
- 日本(沖縄島、座間味島、屋我地島)
- Parus minor tibetanus Hartert, 1905
- 中華人民共和国中南部からチベット南部、ミャンマー北部
- P. m. subtibetanusはシノニムとされる。
本種は、以前にはParus major(Great tit)と同一種とみなされ、Parus majorの30以上の亜種の一つに分類位置づけられ、Parus major minorとされていた。
2005年に発表された分類研究により、Parus majorは、Parus major、Parus minor、Parus cinereusの独立した3種に分割された。ただし、この新しい分類はまだ一般に普及しているとはいえず、鳥類図鑑などでは依然として、Parus major minorと表記されていることが多い。
人間との関わり
石垣や民家などの隙間といった建築物にも営巣し、樹洞に巣を作るため巣箱も利用する。伏せた植木鉢などに営巣することもある[8]。
動物園などで飼育対象とされることもある[20]。
日本では1997年(平成9年)7月22日から2014年(平成26年)3月31日まで販売された70円普通切手の意匠になった[21][22]。
神奈川県茅ヶ崎市では「市の鳥」に制定している[23]。
脚注
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
シジュウカラに関連するカテゴリがあります。
外部リンク
- 上田ネイチャーサウンド. “シジュウカラ”. 鳴き声図鑑. 2014年1月23日閲覧。