ソラノス
エフェソスのソラノス『婦人科学』古代末期 のラテン語 版より、子宮 内における胎児 の体位。この中世の写本に見える図解は、おそらくはソラノスが描いたものを踏まえている。ブリュッセル 王立文書館蔵、Codex 3714, fol. 28r.
エフェソスのソラノス (ギリシャ語 : Σωρανός ὁ Ἑφέσιος ; fl. 1世紀 /2世紀 )は、古代ギリシアの医師 。エフェソス に生まれたが、アレクサンドリア で、後にはローマ に移って医術を施し、方法派 (英語版 ) の代表的人物のひとりであった。その著書はいくつか伝えられているが、その中でも特に重要なものは、婦人科学 についての4巻本の専門書と後にラテン語 に訳された『急性病と慢性病について (De morbis acutis et chronicis )』である。
生涯
ソラノスの生涯について分かっていることはほとんどない。『スーダ辞典 』には、彼に関する記述が2か所にあり[ 1] 、それによれば彼はエフェソス に生まれた、メナンドロスとフォイベの息子で、アレクサンドリア において、次いでトラヤヌス 帝からハドリアヌス 帝にかけての時期(98年 – 138年 )のローマ において医術を施した。アルキゲネス (英語版 ) はソラノスの薬を使ったとされており、ソラノスはアルキゲネスの時代には活動していたことになるし[ 2] 、ヘラクレア のスタティリウス・アッタルス (Statilius Attalus) の教師でもあったとされ、また、ガレノス が『治療法について (De Methodo Medendi )』を著した178年 頃には既に故人となっていた[ 3] 。
ソラノスは、方法派 に属し[ 4] 、その代表的な医師のひとりであった。この他には知られていることはほとんどないが、彼は一時期アクィタニア に赴いて、当時当地で流行していた皮膚病の治療にあたったとされている[ 5] 。
著作
彼の専門書『婦人科学』は伝えられており、1838年 に最初に印刷出版された後、ファレンティン・ロゼ (英語版 ) によって1882年 に、6世紀 のムスキオ なる人物によるラテン語 訳とともに出版された。他に現存するものとして、『骨折の徴候』、『包帯』の一部などがある。最も重要な著作である『急性病と慢性病について』は、ギリシア語 原文はいくつかの断片が残るだけであるが、5世紀 のカエリウス・アウレリアヌス (英語版 ) によるラテン語完訳が現存している。『ヒポクラテスの生涯』は、『スーダ辞典 』で言及されている医学者の評伝集の一部であったものと思われ、『スーダ辞典』やビュザンティオンのステファノス (英語版 ) (s.v. Κώς ) と並んで、偉大な医師であったヒポクラテス の生涯についての数少ない権威のある記述となっている。ただし、『医学入門』[ 6] は偽書 と考えられている。
この他にも、ソラノスは、書名や断片だけが伝えられている数篇の著作者であったとされる。ガレノス は『薬学』についての2点の著作に言及しており、その一部からの引用も示している[ 7] 。カエリウス・アウレリアヌスは、さらに数篇の著作からの引用を残しており[ 8] 、ソラノス自身もさらに多くの、今は伝えられていない自著について言及している[ 9] 。テルトゥリアヌス は、4巻本だったとされる『霊魂について (De Anima )』に言及しており[ 10] 、そこではソラノスが霊魂 を7つの部位に分けていたこと[ 11] 、また、その不死性を否定していたことが語られている[ 12] 。アイギナのパウロス もソラノスに言及し[ 13] 、ギニア虫(ギニアワーム) (英語版 ) について記述した最初の古代ギリシア人著作家だとしているなど、古代人の間でソラノスの評判は高かったことがうかがえ、アウグスティヌス は彼を「最も高貴なる医学の権威 (Medicinae auctor nobilissimus)」と呼び[ 14] 、テルトゥリアヌスは「方法派医術の最高指導者 (Methodicae Medicinae instructissimus auctor)」と呼んだ[ 12] 。
脚注
^ Suda, Soranos , σ 851, σ 852
^ ap. Aët. ii. 2. 55
^ Galen, De Meth. Med. , i. 7. vol. x.
^ Pseudo-Galen, Introd. c. 4, vol. xiv.
^ Marcellus Empiricus, De Medicam. c. 19
^ V. Rose, Anecdota graeca , ii. 1870
^ Galen, De Compos. Medicam. sec. Loc. , i. 2, vi. 7, 8, vii. 2. vol. xii., xiii. 42
^ Caelius Aurelianus, De Morb. Acut. , ii. 29, 33; De Morb. Chron. , i. 3, iv. 1
^ Soranus, De Arte Obst. , passim.
^ Tertullian, De Anima , cc. 8, 15, 25, 44
^ Tertullian, De Anima , c. 14
^ a b Tertullian, De Anima , c. 6
^ Paulus Aegineta, iv. 59
^ Augustine, Cont. Julian , v. 51
関連項目
参考文献
関連文献
Weitzmann, Kurt , ed., Age of spirituality: late antique and early Christian art, third to seventh century , no. 187, 1979, Metropolitan Museum of Art , New York, ISBN 9780870991790 ; full text available online from The Metropolitan Museum of Art Libraries
ギリシア語テキスト
Johannes Ilberg , Sorani Gynaeciorum libri IV, De signis fracturarum, De fasciis, Vita Hippocratis secundum Soranum , Corpus medicorum Graecorum 4, Berlin, 1927. (online )
Paul Burguière, Danielle Gourevitch , and Yves Malinas, Maladies des femmes (with French translation), Collection Budé , 1988-.
英語訳