MD エクスプローラー (ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州 警察)
MD 520N のテールブーム
ノーター ( NOTAR , NO TA il R otor の頭字語 )とは、他の多くの「単一の主回転翼」〔メインローター〕型式のヘリコプター が備えるテールローター に相当する飛行装置の一形式の名称。
テイルローターと同様に、ヘリコプター特有の「主回転翼(メインローター)の駆動に伴う反作用 」(トルク とも呼ぶ)を原因とした、機体の操縦性喪失と墜落の危険につながるヨーイング を打ち消すための機体固有の仕組み。MDヘリコプターズ によって開発された[ 1] [ 2] [リンク切れ ] 。
開発
ノーター・システムの開発は1975年 にヒューズ・ヘリコプターズ の技術者 が概念を開発した[ 3] 。1981年 、12月、数機のヒューズH-6A にノーター・システムが初めて搭載された。米陸軍からノーター技術開発の為、貸与された機体であった。
動作原理と機構
ノーターの原理。青色が空気の流れ。1.空気取入口 2.可変ピッチファン 3.コアンダ・スロット付きのテイルブーム 4.垂直安定板 5.直噴ジェットスラスター 6.下降流 7.コアンダ効果による横推力の発生を示したテイルブームの断面図 8.反トルク力
コアンダ効果 を応用している[ 3] 。内蔵されたファンのピッチを変える事により、テイルブームから噴出する空気の量を変えてメインローターの反作用の変化と釣り合わせる。
テイル・ブームの基部内に備わった送風ファン がエンジン によって駆動されて、外気を取り込み、後部へと伸びるテイル・ブーム内へ送風する。テイル・ブームにはブーム途中の片側側面とブーム末端部の反対側面に開口部を持ち、送風された空気を噴出させる。
それぞれの噴出は「サーキュレーション・ジェット」と「ダイレクト・ジェット」と呼ばれる。ブーム途中の開口部では、側面から下方へ向けてサーキュレーション・ジェットを噴出することでメイン・ローターの作り出す強力な下降気流(の一部)を曲げる。このコアンダ効果 によって、ブーム左右の下降気流の流れが不均一となり、開口部側の流速が高まって側方へ引っ張られる。ブーム末端部の開口部からのダイレクト・ジェットはそのまま側方へ押す力となる。
2つの側方への力は、メイン・ローターの回転が作り出す機体の回転運動(反トルク)を打ち消すように働く。また、機首方向を決める運動(ヨー )で使用される。
通常のテイル・ローターのように回転翼が露出せず、機体内部にあるので地上離 着陸 時などでの人身事故 の危険が減らせることや、騒音 の低減が図れる。
ホバリング時には、サーキュレーション・ジェットとダイレクト・ジェットは、ヨーイングの制御にほぼ50%ずつの効果を発揮しているが、前進飛行速度が40 km/h - 95 km/h 程度では、テイル・ブーム側面を流れるメイン・ローターからの下降気流が斜めになるためコアンダ効果は働かず、サーキュレーション・ジェットの効果に代わって、テール末端部の垂直尾翼が反トルクを含めてヨーイングの制御に使用できる[ 4] 。
内部に空気を通すため、テールブームの断面が円形になっているのが外見上の特徴である。
長所・短所
長所
騒音低減が期待できる
地上離着陸時に高速回転しているテイル・ローターに接触する危険がなくなる
テイル・ローターの翼端が発生する渦流がないので振動が軽減される
テイル・ローター機のドクターヘリでは振動の為に機内で注射を打つことは困難だったが、ノーター機では可能となった
パイロットの負荷が軽減される
伝達軸等の駆動系統の部品点数が減り、整備費が軽減される
短所
テイル・ローター機と比較して、ペダル操作の反応に時間差(タイムラグ)がある
テイル・ブームが太くなるので空力特性、特に直進時の安定性が悪くなる
巡航時には効果がなくなるため、ヨー操縦を方向舵 に頼る必要があり、また大きな抗力が発生してしまう
推力効率がダクテッド・テイル・ローター以上に悪く、上述した抗力と相まって燃費が悪くなる
ノーター採用機種
ノーター・システムを搭載した機体は3機種生産されている。全てMDヘリコプター製である。
テイルローターに起因する振動や危険が皆無であるため、ドクターヘリ への採用が多いが、低騒音なため警察、報道にも採用されている。ただし、燃費の悪さがネックとなって今の所はMD 900が軍用としてメキシコ海軍 に採用された程度の事例である。
出典
関連項目
外部リンク