ヒメタイコウチ (姫太鼓打、Nepa hoffmanni )は、カメムシ目 タイコウチ科 ヒメタイコウチ属に属する昆虫 の一種。水生カメムシであるタイコウチの一種だが、完全な水中生活ではなく、水際の草の根元や枯葉の間などに潜んで生活する[ 1] 。生態や分布域に謎が多く、比較的珍しいとされる。
分布
中国 東北部、朝鮮半島 、ロシア のウスリー地方、日本 に分布。国内では愛知県 、三重県 、兵庫県 、岐阜県 、和歌山県 、香川県 に局所的に分布している[ 1] 。湿地や浅い水域に生息。生息地には湧水がある場合が多い。名古屋市内では、身近な場所に生息しているが、近年の都市開発 などにより、分布域を確実に減らしている。ヒメタイコウチの生息地は、地理的条件から土地開発の対象となり易いため、保全には注意が必要である。
形態・生態
体長20mmほど。体色は茶褐色で腹部末端に呼吸管を具えるが長さは2-3mmしかなく、タイコウチ のように長くはない。同属の他種に比べ、身体とりわけ前肢ががっしりして、呼吸管は短い[ 2] 。肉食性で、鎌状の前肢を用いて主に体長20mm程度の昆虫やヤスデ、ヒメフナムシなど節足動物 を捕らえ[ 1] 、口針から消化液を送り込み溶けた体組織を吸入する体外消化 を行う。水中生活には適応しておらず、陸上で活動することが多い。後翅 はあるが退化しており飛翔はできない。
12月頃に陸上の土中や枯葉の下などで越冬 する。
繁殖
産卵期 は4~6月。雌は水辺の土、苔に、産卵する。産卵数はメス1匹あたり8〜12個である。卵は先端に10数本の短い呼吸糸を持つ。孵化した幼虫は5回の脱皮を経て7〜8月に成虫となる。これは水生カメムシの中では遅い方である。
飼育
水深数cmの水に砂や土、苔等で陸部を多く設ける。水深が深いと溺れ死んでしまう。他の水生昆虫 とは違い小魚やオタマジャクシなどを捕食しないため、生きた昆虫類を餌として与える。飛翔はしないが、壁面を登るため容器に蓋をする必要がある。
餌は数日おきに与える。水中にいるときはもっぱら獲物を待ち構えているので、その時に与えると反応が良い。
人との関わり
宅地造成やため池改修などによる直接的な生息地の消失のほか、水田の耕作放棄による植生遷移、水源地の改変による湧水の枯渇などにより生息地が減少している[ 1] 。
三重県桑名市 では、1985年 に文化財(天然記念物 )に指定された[ 3] 。
三重県 では、2017年 (平成29年)3月31日に三重県自然環境保全条例第18条第1項の規定により、ヒメタイコウチを三重県指定希少野生動植物種に指定した。捕獲等する場合は事前の届出が必要であり、違反すると6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金 に処される場合がある[ 4] 。
脚注
^ a b c d 桑名市教育委員会 2010 桑名市指定天然記念物ヒメタイコウチ保存管理計画
^ S. L. Keffer, J. T. Polhemus and J. E. McPherson 1990 What Is Nepa hoffmanni (Heteroptera: Nepidae)? Male Genitalia Hold the Answer, and Delimit Species Groups. Journal of the New York Entomological Society
98 (2): 154-162
^ 「桑名市指定文化財 ヒメタイコウチ」 桑名市教育委員会文化財ホームページ
^ [1]
参考文献
豊橋市自然史博物館研報