マツブサ科 (マツブサか、学名 : Schisandraceae )は、被子植物 のアウストロバイレヤ目 に属する科 の1つである。直立またはつる性 の木本 であり、精油 を含む。花 は両性または単性、らせん状に配置した多数の花被片 (萼片 と花弁 の分化は不明瞭)と雄しべ をもつ(図1)。雌しべ は離生し、果実 は集合性の袋果 または液果 となる。
北米 南東部と東アジア から南アジア に隔離分布している。3属(シキミ属 、サネカズラ属 、マツブサ属 )、約80種が知られる。シキミ属を別科(シキミ科)に分けることが多かったが、2020年現在ではふつうマツブサ科としてまとめられている。
特徴
常緑性 または落葉性 の木本 であり、直立 (低木 〜高木 ) またはつる性 (藤本 )[ 3] [ 4] [ 5] [ 6] (下図2a, b)。材は散孔材 (道管 は散在)、道管 は階段穿孔、網状穿孔または単穿孔をもち、チロースが存在する[ 5] [ 6] 。髄は均質だが中央部の細胞の細胞壁は薄い[ 5] [ 6] 。師管 の色素体 はS-type (デンプン 粒を含む)。節は1葉隙 1–3葉跡 性[ 3] [ 4] [ 5] [ 6] 。葉 は互生 し、しばしば枝先にまとまってつく[ 3] [ 5] [ 6] (下図2c)。単葉 、葉縁 は全縁または鋸歯があり、葉柄 をもち、托葉 を欠く[ 4] [ 5] [ 6] (下図2c)。葉にはふつう腺点がある[ 3] [ 5] [ 6] 。葉脈 は羽状[ 3] 。気孔 は不規則型または平行型[ 5] [ 6] 。植物体は精油 細胞や粘液細胞、星状厚壁異形細胞をもつ[ 3] [ 7] 。四環トリテルペン をもつ[ 7] 。フラボノール を有し、フラボン を欠く[ 7] 。
花 はふつう葉腋 に単生する (まれに幹生花 )[ 3] [ 4] [ 5] [ 6] (上図2c)。両性花 、あるいは単性花 で雌雄同株 、異株 または雑性 (両性花と単生花をつける)[ 3] [ 4] 。花托 は、花後に肥大または伸長することがある[ 4] (下図3d)。花は放射相称、花被片 は多数 (5–33枚)、萼片 ・花弁 の区別がなく (ときに外側から内側へ萼片状から花弁状へ連続的)、離生し、らせん状につく[ 3] [ 4] [ 5] [ 6] (下図3a, b)。雄しべ は4–80個、ふつう離生だがときに合生、花糸 は葉状ではないが短く、らせん状につき、求心的に成熟する[ 3] [ 4] [ 5] [ 6] (下図3a, b)。小胞子形成は同時型、タペート組織は分泌型[ 5] [ 6] 。花粉 は2細胞性、3または6溝粒である点で真正双子葉類 の花粉に似ているが、溝の位置が異なり、相同なものではない[ 3] [ 4] [ 5] [ 6] 。心皮 は5個〜多数、離生しており、螺生または輪生する[ 3] [ 4] (下図3a)。子房上位 、1心皮に1–5個の胚珠 (倒生胚珠または湾生胚珠) がつく[ 3] [ 5] [ 6] 。果実 は袋果 または液果 であり、集合果 となる[ 4] (下図3c, d)。種子 は多量の脂質の胚乳 を含み、胚は小さい[ 4] 。内胚乳形成は造壁型[ 5] [ 6] 。
少なくとも一部の花は発熱性である[ 7] 。主な送粉者はタマバエ 類であり、特定のタマバエ類の雌が訪花、花に産卵、幼虫 は花の分泌物 (セスキテルペン など) を食料としていることが報告されている[ 7] 。その他に甲虫 による送粉もあり、また騙し送粉 (送粉者に報酬を与えない) をおこなっている可能性もある[ 7] 。
分布
アジア東部と北米に隔離分布 する。新世界 ではアメリカ合衆国 南東部とメキシコ 東部、西インド諸島 、旧世界 ではセイロン島 およびネパール から東南アジア 、日本 を含む東アジア までの熱帯 から温帯 域に分布している[ 3] [ 4] [ 5] [ 6] [ 7] 。
人間との関わり
マツブサ科の植物は精油 を多く含み、しばしばこれが利用される。トウシキミ の果実 は八角 ( はっかく ) 、大茴香 ( だいういきょう ) 、スターアニスとよばれて香辛料 や生薬 として広く利用され、大規模に栽培もされている[ 8] [ 9] (下図4a, b)。またチョウセンゴミシ やマツブサ も果実が飲料や生薬とされたり、つるや葉が浴湯料とされることがある[ 10] [ 11] [ 12] [ 13] (下図4c, d)。
シキミ属 は有毒のセスキテルペン (アニサチン など) を含むものが多く、食中毒が発生することもある[ 14] [ 15] 。一方、日本に分布するシキミ は仏事に広く用いられ、仏前や墓前の供花とされたり、抹香 や線香 の原料とされる[ 16] 。
分類
2020年現在、マツブサ科には3属 (シキミ属 、サネカズラ属 、マツブサ属 ) が知られている (下表)。これらの属は、花の形態の類似性から (らせん状に配置した多数の雄しべ と雌しべ など)、古くはモクレン科に分類されていた[ 4] [ 17] 。やがてシキミ属 がシキミ科に、サネカズラ属 とマツブサ属 がマツブサ科 (狭義) に分類されるようになった[ 18] [ 19] 。この2科はつる性か否か、花は両性か単性か、果実は袋果か液果か、などの点で異なる (下表)。ただし両科は多くの形質を共有しており (上記参照 )、近縁であることは認識されていた。
新エングラー体系 では、シキミ科とマツブサ科 (狭義) はモクレン目に分類されていた[ 18] [ 19] 。またその後のクロンキスト体系 では、この両科は独自のシキミ目に分類されていた[ 20] [ 21] 。
やがて分子系統学 的研究が行われるようになると、シキミ科とマツブサ科 (狭義) の近縁性が確認されると共に、これが被子植物の初期分岐群の1つであることが明らかとなった。シキミ科とマツブサ科 (狭義) はトリメニア科 やアウストロバイレヤ科 に近縁であり、2020年現在ではこれらをあわせてアウストロバイレヤ目 に分類されている[ 7] 。現生被子植物 の中では、最初にアンボレラ目 が、次にスイレン目 が分岐し、3番目にアウストロバイレヤ目が分岐したと考えられている[ 7] 。またシキミ科とマツブサ科 (狭義) はそれぞれ単系統群であることが示されており、両科を別に扱うことも可能であるが[ 22] 、両科をあわせてマツブサ科 (広義) とすることが提唱され[ 23] 、2020年現在ではふつうそのように扱われている[ 4] [ 7] 。
6 . マツブサ科の系統仮説[ 24] (二重線は非単系統)
マツブサ科には3属、約80種が知られる[ 1] 。この3属の中では、シキミ属 が最初に分岐し、サネカズラ属 とマツブサ属 が単系統群を構成する[ 7] (図6)。ただし分子系統解析 からは、サネカズラ属とマツブサ属はそれぞれ非単系統群 であることが示唆されている[ 7] [ 24] 。
脚注
出典
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外部リンク
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Stevens, P. F. (2001 onwards). “Schisandraceae ”. Angiosperm Phylogeny Website . Version 14, July 2017 . 2021年5月7日 閲覧。 (英語)
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