有限会社風媒社(ふうばいしゃ)は、愛知県名古屋市に本拠地を置く出版社。
概要
1963年(昭和38年)設立。社名には「本を介して情報が風に乗って広がるように」という意味が込められている[1]。現編輯長は在日韓国人三世の劉永昇である。原子力発電所や環境などの社会問題を問う書籍や、名古屋市を中心とする郷土に関する書籍を中心に刊行している[2]。問出版社団体であるNR出版会、日本出版者協議会に所属する。
歴史
1933年(昭和8年)、創業者である稲垣喜代志は愛知県碧海郡刈谷町(現・刈谷市)に生まれた。法政大学文学部に入学後、3年次に法学部に転部した。在学中は学生運動が盛んであり活動に明け暮れた。その後学生社に入社するが、日本読書新聞に転職し、記者として当時の編輯長の巌浩の元で学んだ。日本読書新聞では同僚に、作家の渡辺京二や詩人の三木卓らがいた。1963年(昭和38年)には日本読書新聞を退社し、愛知県名古屋市に転居して風媒社を設立した。
初期には『現代ソ連論』など思想系翻訳書の刊行が多かったが、1970年代以降には子育て・陶芸・洋画などの分野の刊行が増えた[2]。社会問題を提起するような書籍を積極的に刊行しており、1967年(昭和42年)には四日市ぜんそくの被害者に焦点を当てた『青空をかえせ』を刊行した[2]。1993年(平成5年)には慰安婦問題に関する証言集『破られた沈黙』(後に『無窮花の哀しみ』に改題)を刊行した[2]。1995年(平成7年)に刊行した『原発事故…その時、あなたは!』は、2011年(平成23年)3月11日の福島第一原子力発電所事故後に再び注目を集めた[2]。1993年(平成5年)に『さくら道 太平洋と日本海を桜で結ぼう』を刊行すると、1994年(平成6年)には『さくら』として映画化され、その後も売れ続けるロングセラーとなった。
2011年(平成23年)には稲垣が代表を退いて会長に就任し、後任の社長には山口章が就任した。それまで入居していたビルが老朽化したことで、2017年(平成29年)4月には堀川沿いの現在地に移転した。2017年(平成29年)10月28日には創業者の稲垣が死去した[2][1]。
2021年(令和3年)2月には2020年(令和2年)度の名古屋市芸術奨励賞(名古屋市芸術賞)を受賞した[2][1][3]。文芸分野で出版社が受賞するのは初である[2]。2022年(令和4年)には中日文化賞を受賞した[4]。
特色
出版第1号は小児麻痺患者の歌人・新堂広志『はるかなる陽ざし 新堂広志歌集』であり、短歌関係の出版物も多い。2003年(平成15年)から2007年(平成19年)にかけて荻原裕幸責任編集の「短歌ヴァーサス」を刊行し、斉藤斎藤、笹井宏之、永井祐など若手歌人たちの登場の場となった。
社会科学書、ノンフィクション、文学を中心に出版活動しているが、近年では尾張地方を題材にしたガイドブックの刊行も目立つ。年間に40冊から50冊を刊行し、2021年(令和3年)時点で総刊行点数は2000冊を超える[2]。中部大学発行書籍の発売元にもなっている。
出版物
- 主要出版物
- 小関智弘『粋な旋盤工』1984年
- 中村儀朋『さくら道:太平洋と日本海を桜で結ぼう』1994年
- 朝日新聞名古屋社会部『町長襲撃:産廃とテロに揺れた町』1997年
- 定期刊行物
脚注
参考文献
外部リンク