ATR 72はフランスとイタリアの航空機メーカーATRが製造するターボプロップ双発旅客機である。ATR 42のストレッチ型で積載量が増加している。1988年に初飛行。現在も開発が続けられている。
開発
機体胴部を4.5メートルとATR 42よりも翼幅を延長し、より強力なエンジンを搭載した。また、燃料積載量を約10パーセント増やした。1985年にパリ航空ショーで発表され、翌年の1986年に試作機3機が完成した。それぞれ、1988年10月27日、同年12月20日、1989年4月に初飛行を行った[2]。
ATR 42の拡大型であるため、基本構造は同じであり、高翼配置の後退角のない主翼を持つ。アスペクト比は11と高く、細長い主翼を持ち、二重隙間フラップを有する。T字尾翼を持ち、主脚は胴体側下面のバルジ内に収める。真円の胴体形状で与圧に配慮している。
1996年1月にATR 72-500が初飛行。エンジン出力の向上などの改良が続けられているほか、ATR 72-500ではプロペラに6枚翅のものが採用され、騒音と振動が軽減、快適性が向上している。ATRは、国際民間航空機関 (ICAO) の騒音基準を下回っていると発表した。
2002年7月には、ATR 72の貨物専用機がファーンボロー国際航空ショーで公開された。ATR 72の前部ハッチは貨物ドアで、オプションでさらに大型のドアを装備できるため、既存のATR 72を貨物機に改装することも可能である[1]。発注以前に機体前部に格納スペースを4.6 m3から5.8 m3にかけて構成することができるが、何十機かは前部ハッチを乗降ドアにしている[3]。
運用者
民間型
1986年にフィンランド航空がローンチカスタマーとなり、1号機が1989年10月27日に納入された。1997年7月には、ATR 72-500の1号機がアメリカン・イーグル航空(現・エンヴォイ・エア)に納入された。
1995年の時点で163機のATR 72が発注され、そのうち149機が納入された。1998年3月にはATR 72の通算200機目が生産され、新疆航空に納入された。2004年11月にはATR 72の通算300機目をニュージーランド航空に納入。
競合機となるデ・ハビランド・カナダ DHC-8(ボンバルディア)やリージョナルジェットと比べ、低騒音、低燃費、機体価格の安さをセールスポイントとしている。2007年に日本の小型旅客機市場への参入を表明し、伊藤忠商事の子会社を販売代理店とするなど日本での販売体制を整備している[4]。
日本では、スターフライヤーと航空運送事業の立ち上げ支援について基本合意を締結し、2012年4月に設立された地域航空会社リンクが、2013年秋に日本で初めてATR 72-600型機を3機導入する予定で[5][6]、同年10月28日に国土交通省がATR 72の型式証明書を交付した[7]が、リンクの倒産により就航計画は立ち消えとなり、受領は行われなかった。
2018年6月5日、日本エアコミューターがATR 42-600の発注分の1機をATR 72-600に変更することがATR・日本エアコミューター双方から発表され[8]、2018年に受領就航し、2019年に追加でもう1機導入された。
2020年9月、前述のリンクと同様なリージョナルLCCであるトキエアが、ATR 72-600を2機リース導入する契約を締結[9]。2022年10月に1号機[10]、2023年1月に2号機が納入[11]。2号機は旅客定員72席を44席に減らして貨物搭載量を1,400 kg増やすことができるカーゴフレックス対応型である[11]。
軍事型
タイプ
- ATR 72-100
- 初量産型。プラット・アンド・ホイットニー・カナダ製PW124Bエンジン (2,400 shp) を搭載。派生型として、ATR 72-101とATR 72-102がある。
- ATR 72-200
- ATR 72-100と同じくPW124Bエンジンを搭載。最大離陸重量を増加させた。ATR 72-201とATR 72-202がある。
- ATR 72-210
- PW127エンジン (2,750 shp) へ換装。高高度および熱への耐性を向上させた。1992年に認証を得た。ATR 72-211とATR 72-212がある。
- ATR 72-500
- 搭載量を増大し、離着陸性能と操縦性を向上させた。エンジンはPW127Fへ換装。かつてATR 72-210Aと呼ばれていた。
- ATR 72-600
- 2007年10月に発表され、2010年から導入されるシリーズ。エンジンをPW127Mへ換装し、液晶画面への交換によるグラスコックピット化がなされた。
- ATR 72-600F
- -600の貨物型であり、2017年にフェデックス・エクスプレスが計50機(確定30機とオプション20機)を発注した[13]。初号機は2020年に予定どおり納入された[14]。
- ATR 72ASW
- レオナルド S.p.Aが72-600をベースに開発中の哨戒機[15]。イタリアとトルコ[16]が採用している。イタリアでの名称はP-72A。
スペック
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ATR 72-200
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ATR 72-210
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ATR 72-500
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ATR 72-600
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ATR 72-600F
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運航乗務員
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2人
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座席数
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66席(標準) |
68席(標準) |
72席(標準) |
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全長
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27.166 m (89 ft 1.5 in)
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全幅
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27.050 m (88 ft 9.0 in)
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全高
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7.65 m (25 ft 1 in)
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翼面積
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61 m2 (660 sq ft)
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主翼アスペクト比
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12
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ホイールベース
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10.77 m (35 ft 4 in)
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キャビン長
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自重
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13,000 kg (29,000 lb) |
13,500 kg (29,800 lb) |
13,600 kg (30,000 lb) |
11,800 kg (26,000 lb)
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最大離陸重量 (MTOW)
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21,500 kg (47,400 lb) |
22,000 kg (49,000 lb) |
23,000 kg (51,000 lb)
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ペイロード
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7,000 kg (15,000 lb) |
7,400 kg (16,300 lb) |
7,930 kg (17,480 lb)
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巡航速度
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515 km/h (278 kn) |
517 km/h (279 kn) |
510 km/h (280 kn) |
500 km/h (270 kn)
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航続距離
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1,596 km (862 nmi) |
1,465 km (791 nmi) |
1,430 km (772 nmi) |
1,370 km (740 nmi) |
1,910 km (1,030 nmi)
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離陸滑走距離 (最大離陸重量時)
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1,409 m (4,623 ft) |
1,211 m (3,973 ft) |
1,224 m (4,016 ft) |
1,315 m (4,314 ft)
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着陸滑走距離 (最大着陸重量時)
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1,036 m (3,399 ft) |
902 m (2,959 ft) |
899 m (2,949 ft) |
915 m (3,002 ft)
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最大燃料容量
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5,000 kg (11,000 lb)
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実用上昇限度
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7,600 m (24,900 ft)
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エンジン (×2)
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PW124B |
PW127 |
PW127F/M |
PW127XT-M
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出典
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[18] |
[19] |
[20] |
[21]
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事故
脚注
関連項目
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
ATR 72に関連する
メディアおよび
カテゴリがあります。
- “航空機ファミリー”. ATR. 2024年1月21日閲覧。 - ATR(日本語)
- “ATR42/72の概要” (pdf). 2024年1月21日閲覧。 - 財団法人日本航空機開発協会(日本語)