Microsoft Windows 95 (マイクロソフト ウィンドウズ 95)は、マイクロソフト がWindows 3.1 の後継として、1995年 に発売したオペレーティングシステム (OS) である[2] [3] 。インターネット が一般に広まりはじめた時期に、業務用だけでなく、一般家庭にも急速な普及を見せた画期的なOSで、パソコンを爆発的に普及させる原動力となった。
Microsoft Windows (Windows) ファミリーの1つであり、コードネーム はChicago 。Windowsの内部バージョンは4.0(初期版)である。
概説
従来は専門家用の高価なワークステーション でしか得られなかった操作感や機能を、一般向けに実現した点が世界 に大きなインパクトを与えた。特に、家庭用として購入可能な価格のパソコンで動作するにもかかわらず、一般にも分かりやすい美麗な(ハイカラー (16bitカラー),トゥルーカラー (24bitカラー, 32bitカラー)で描画できる)GUI を備え、プラグアンドプレイ やインターネット にも対応したOSという点が一般受けし、インターネット ブームと共に爆発的に普及した。
別製品であったMS-DOS とWindowsが同一製品となった(製品パッケージやインストールメディアとしての話であって、システムとして統合されたわけではない)。次のような機能がWindows 3.1時代などと比べた特徴である。
ただし、上記の機能の中にはWindows for Workgroups 3.11(日本未発売)やWindows NT 3.51で既に実装されていたものもある。またVFATと呼ばれる「長いファイル名」(long file name)も導入されたが、MS-DOSを介さず直接ディスクを操作することで一部の機能を実現していたいわゆるマナーの悪いソフト(ファイル管理ソフト「FD」 など)で非互換性が発生した例などがある。
グラフィカルユーザインタフェースの改善
NEXTSTEP 風のウィジェット を採用し、ユーザインタフェース (UI) デザインの大幅な刷新が図られた。特に、Apple Computer とのGUI絡みの裁判が決着したことを背景に、タスクバー やスタートメニュー 、マウスの右ボタンのクリックで表示される内容の一覧から希望する処理を選択するといったUIなど、従来のWindowsではアプリケーションランチャ、タスクマネージャとしてしか機能していなかったデスクトップ を一般的なディレクトリ (フォルダ)のひとつとしたことで、他のディレクトリとシームレスにファイルを移動できるようになった点が革新的であった。文書 を読む流れを意識して設計されたMacintosh と比較すると、タスクバーが画面下端に設置される等の違いがある。
初心者でも操作を理解しやすく、完成度の高かったこのGUIは、その後Windows NT系 でもWindows NT 4.0 で採用され、Windows 9x系 においては、Microsoft Windows Me 、Windows NT系においては、Windows 2000 までほとんど変更を加えられずに引き継がれた。Windows 9x系の消滅後もWindows XP やWindows Vista 、Windows 7 のクラシックモードにおいてもWindows 95とほとんど同一のデザインが採用されていた。新しく追加されたユーザーインターフェースでも、ボタンの配置などの基本設計はWindows 95と概ね同じであった。Windows 8 ではスタートボタンが廃止されたがユーザーの不評を買い、Windows 8.1 やWindows 10 ではスタートボタンが復活した。
ネットワーク機能の充実
ビジネス分野でのLAN の普及に対応し、ネットワーク設定の容易化を進めた。特に日本では、ネットワーク機能付きのWindows for Workgroup 3.11 が販売されず、代替としてWindows NT Workstation 3.5 が他国の販売価格と比較して安価に提供されていたが、ごく一部の先進的なユーザが導入するに留まっていた。そういった背景もあり、Windows 95は大きな期待を集めた。当初の戦略としては、LANはNetBEUI またはIPX/SPX 、WANはパソコン通信 (ホストとしてはMSN の利用を想定)を利用すると位置付けていたが、前年の1994年 頃よりインターネット でWWW の普及に弾みが付き始めたことに対応して、インターネットに必要な通信プロトコル のTCP/IP を選択することもできた。
もっとも、ビル・ゲイツ はインターネットの普及はまだ先であるとして、パソコン通信を前提としたネットワークを考えていた。それ故、Windows 95の初期バージョンには、インターネット関連の機能は搭載されておらず、別売りの「Microsoft Plus! 」による拡張機能として、Internet Explorer 2.0 (英語版はIE1.0 )を提供していた。しかし、ビル・ゲイツはWindows 95発売後すぐに、自分の判断の誤りに気づき、OSR2以降ではインターネット関連機能が標準搭載されるようになった。すなわち、OSR2ではTCP/IPが初期状態で選択されており、Windows 95を使えばインターネットに接続できるというイメージ戦略も成功し人気に拍車をかけることになった。
Win32 API
Win32 API が提供され、高速な32ビット コードによるプログラムをWindows上で使用可能になった。ただし、Windows 95で実装されたWin32 API(かつてはWin32cと呼ばれていた)はWindows NTで実装されていたものと完全な互換性はなく、Windows 3.1で実装されていたもの (Win32s) とも異なるものであった。
ファイルI/Oの改善
ファイルI/O を32ビットプロテクトモード で行い、MS-DOSのファイルI/O機能を使用せずにファイルI/Oを行えるようになった。これにより、MS-DOSのファイルI/O機能を使用していた以前のバージョンのWindowsよりファイルI/Oの性能が向上した。なお、スワップファイル へのアクセスに限っては、Windows 3.1の段階で既に32ビットI/Oを実現していた。
その他
ファイルシステムであるFAT を拡張し、VFAT としてWindows 3.1では不可能であった長いファイル名(最大255バイト)が利用可能になった。
プラグアンドプレイ による周辺機器の容易な増設など、分かりやすさを狙った設計となっていた。そのため、それまで専門的な知識を必要としたパソコンは誰でも手軽に使えるものになったと謳われた。
インターネットを使ってソフトの修正モジュールが配布されるようになったのも大きな特徴であった(初期版は特に修正モジュールが多かった)。
ゲームはWindows 3.1にもあったソリティア ・マインスイーパ のほか、新たにWin32s の付属サンプルでもあったフリーセル のほかハーツ とHover! (その後のWindowsには付属していない)が付属する。また、マルチメディア 機能が強化され、後にDirectX が提供された。
「DOSプロンプト 」から複数のMS-DOSアプリケーションを同時に実行できるだけでなく、Windows 95を終了せずにリアルモード のMS-DOSを実行できた。Win16アプリケーションも実行でき、その場合は以前のバージョンのWindowsと同様の動作であった。VFAT による長いファイル名とファイルの拡張子によるアプリケーションの関連付けは不完全ながら下方互換性があり、Windows 95のファイルシステムをMS-DOSからアクセスできた。また、プロテクトモードのドライバを持たないデバイスをリアルモードのドライバを使用してWindows 95からアクセスできた。
Windows 95のパッケージ内容はMS-DOS 7.0/7.1とWindows 4.0のセットであり、MS-DOS 7.xを単独で起動したりWindows 3.1以前と同様MS-DOS用のメニューソフト(ランチャー ソフト)やコマンドライン からWindows 4.0を起動することも可能である。また、PC-9800シリーズ においてはMO ディスクへのインストールおよびMOディスクからの起動が可能であり、ハードディスク を持たないWindowsマシンを構築することが可能である(PC/AT互換機 および、Windows 98 以降では不可能である)。
リリース
1995年8月25日 に英語版が12か国で先行して発売され、日本語のベータ版 もリリースされていたことから、日本でもある程度の情報が広まっていた。販売開始と前後して大量のテレビコマーシャル が流されていたこともあり、日本語版の発売された1995年11月23日 (勤労感謝の日 )の秋葉原 などでは、11月23日になった瞬間に深夜販売を始める店が多く、業界関係者や報道陣を中心に一種のお祭り騒ぎの様相を呈した。この様子はテレビなどで報道され売り上げに貢献した。
Windows 95は先行してリリースされていたWindows NT 3.51に比べるとUI や機能面で進化しているものの安定性や信頼性に劣り、技術的には不完全なものであった。しかし、従来のWindows 3.1よりも使い勝手が改良され、Windows NT 3.51よりも高速で動作し、Windows 95はユーザー・市場のニーズをよく読んでそれに応えるという現実的な解を提供し、マーケティング の成功といえた。
PC/AT互換機 +Windows 95の組み合わせはデスクトップPCの事実上の標準 となり、PC-9800 シリーズ、FM TOWNS などのx86 ベースの独自プラットフォーム のパソコンはPC/AT互換機 に吸収されていった。
CD-ROM とフロッピーディスク (DMFフォーマット )の2種類のメディア でリリースされた。希望小売価格は新規インストール用の通常版で29,800円、Windows 3.1、MS-DOS 5.0が対象のアップグレード版で13,800円であった。
直接的な後継OSとしては、以下のものが存在する。
現在では、さまざまな問題点を解決するために、まったく新しく設計されたWindows NT系のOSが主流となっている。
構造
Windows 95は、カーネル モードのモジュールとユーザーモードのモジュールから構成されている。x86アーキテクチャのリングプロテクション を利用することによって、前者はリング0、後者はリング3で実行される。
カーネル モードのモジュールには以下のものがある。
これらのモジュールは、32ビットプロテクトモードで実行され、Windows 95の動作中にはリアルモードのMS-DOSと置き換わる形となる。このような構造の基本は以前のバージョンのWindowsより引き継いだものであり、Windows 95でにわかに実現したものではない。
Windows 95の構造を「リアルモードのMS-DOS上でプロテクトモードのWindowsが動作している」と説明するのは誤りである。
ユーザーモードのモジュールには以下のものがある。
これらのモジュールの一部(特にUserとGDI )は以前のバージョンのWindowsより引き継いだ16ビット コードで記述されており、Win32 APIが使用された時も16ビットコードが実行されることがある。これにより以前のバージョンのWindowsとの互換性を高めメモリ の使用量を減少させているが、16ビットコードの問題がWin32アプリケーションに影響を与え、性能を低下させることもあった。
Windows 95のVMMは、Win32アプリケーション、MS-DOSアプリケーションに対して各プロセス に固有のアドレス空間を与え、プリエンプティブ・マルチタスク として実行する。このため、特定のアプリケーションの問題によりCPU が占有されるトラブルはなくなった。
一方、Win16アプリケーションに対しては、以前のバージョンのWindowsと同様にすべてのプロセスに共有アドレス空間を与え、ノンプリエンプティブ・マルチタスクとして実行する。これにより、以前のバージョンのWindowsと互換性を保っているが、Win16アプリケーションを使用した場合、以前のバージョンのWindowsと同様にシステムリソース の制限やCPUの占有によるトラブルが発生する。ただし、Win16アプリケーション同士のプリエンプション に制限はあるが、Win16アプリケーションとWin32アプリケーションとのプリエンプションは可能であるため、Win16アプリケーションの問題によりWin32アプリケーションにCPUが与えられなくなることはない。
なお、DLL は上記のKernel、User、GDIも含め、Win16アプリケーションと同じアドレス空間を共有する。
マイナーバージョン
マイナーバージョンは次の6つに分かれる。
初期版 - 内部バージョンは4.0。
SP (Service Pack ) 1 - 内部バージョンは4.0a。初期版にSP1を適用したもの。※初期版と、このSP1適用のみ単体パッケージとしても販売された。
OSR (OEM Service Release) 1 - 内部バージョンは4.0a。SP1を適用のOEM専用版。
OSR2およびOSR2.1 - 内部バージョンは4.0b。初期版発売から1年あまり経った1996年 末頃、ハードウェア とのセットを条件とするOEM専用版(単体パッケージでは発売されず)としてリリース。多数のバグ修正とHDD のDMA 転送のサポート、FAT32 (非公式)などの新機能が盛り込まれ、大きな変化が生じた。OSR2.1ではAGP やUSB への対応がされた。ただし、Windows 95で利用可能なUSB機器はほとんど存在せず、正式にはWindows 98 (安定版はSE)まで待たねばならなかった。
OSR2.5 - 内部バージョンは4.0c。1997年 頃、ハードウェアセットのOEM専用版としてリリース。Internet Explorer 4.0やActive Desktop が統合され機能的にはWindows 98に近くなっているが、処理が重くなっている。誤って「OSR3」と呼ばれることがあった。
初期版およびOSR1と、OSR2系では、ハードウェア増設時の手順や画面に違いがあり、OSR2.0リリース以降の各周辺機器メーカーの取り扱い説明書では、操作方法をWindowsのバージョンによって場合分けして説明しているものがある。
また、機能拡張パックである「Microsoft Plus! for Windows 95 」が別売されていた。これを利用すると、アイコンに使用できる色数が16色から多色に増えたり、フォントのスムーズ表示機能が拡張されたりする。他に、ディスク圧縮 ツール、Internet Explorer 2.0 (英語版は1.0 )などインターネット用のツール、アイコン・サウンド・壁紙のデータ「デスクトップテーマ」、Windows 3D ピンボール が付属する。なお、このWindows 3D ピンボールは後のWindows NT 4.0 からWindows XP までにおいて、標準添付となる。
システム要件
Windows 95 最小ハードウェア仕様要求
32 ビット
プロセッサー
486SX 以上 (2.2GHz以上のCPU には対応しない[4] )
物理メモリー
8 MB以上 (12 MB以上を推奨)
ストレージ
75 MB以上 (インストールする機能によっては、さらに容量が必要となる場合がある)
リムーバブルドライブ
CD-ROMドライブ、FDDドライブのいずれか
画面解像度
640 x 480
アップグレード版では、コンピュータにMS-DOS 5.0以上またはWindows 3.1がインストールされている必要がある。インストールされていない場合、セットアップ中にアップグレード元のWindowsのフロッピーディスクが要求される[5] 。
旧バージョンからのアップグレード / アンインストール
Windows 95には、Windows 3.1 からのみアップグレード可能。Windows NT からはアップグレードできない。また、アップグレード時にシステムファイルを保存していれば、旧バージョンに戻す事(アンインストール )ができる。
新しいバージョンへのアップグレード / アンインストール
Windows 95からはマイナーバージョン (OSR) の有無に関わらず、Windows 98 (Second Editionも含む)、Windows Me 、Windows 2000 Professional のいずれかにアップグレードする事ができる。ただし、Windows Meの「Windows 98ユーザー限定期間限定特別パッケージ 」(Windows 98/98SEからのアップグレードを前提にした低価格の専用アップグレードパッケージ)を使用してWindows Meにアップグレードする場合、事前にWindows 98のインストールCDを手元に用意しておく必要がある。Windows 95からいきなりWindows XP にはアップグレードできず、その後継OSであるWindows Vista /7 /8 にする事も当然できない(Windows 95からではセットアッププログラム自体が起動しない)。また、上記のWindowsの内、Windows 2000以外のバージョンにアップグレードした場合は、後でそのバージョンをアンインストール して、Windows 95に戻す事ができる。
対応機種
出荷・販売本数の推移
日本語版については以下の通り。
その他
標準のシステム 起動音である「The Microsoft Sound」はブライアン・イーノ の作曲。また終了時のサウンドは、Windows 3.1以前の起動音と同じもの(tada)が使用されている。
インストールCDの「Fun Stuff」というフォルダには、"goodtime.avi"と"weezer.avi"の2つのミュージック・ビデオ が収録されている。前者はエディ・ブリケル の"Good Times"、後者はウィーザー の"Buddy Holly"である。
ネットワーク系処理の一部には、BSD 由来のものが含まれている。代表例としては、FTP.EXEの中にBSDライセンス 文字列が含まれている[16] 。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
パソコン
モバイル
サーバー
組み込み用
関連項目