外見
淡黄褐色(加圧しなければほとんど無色) 冷却した液体状態のフッ素
一般特性
名称 , 記号 , 番号
フッ素, F, 9
分類
ハロゲン
族 , 周期 , ブロック
17 , 2 , p
原子量
18.998403163 (6)
電子配置
1s2 2s2 2p5
電子殻
2, 7(画像 )
物理特性
相
気体
密度
(0 °C , 101.325 kPa) 1.7 g/L
融点
53.53 K , −219.62 °C , −363.32 °F
沸点
85.03 K , −188.12 °C , −306.62 °F
臨界点
144.13 K , 5.172 MPa
融解熱
(F2 ) 0.510 kJ/mol
蒸発熱
(F2 ) 6.62 kJ/mol
熱容量
(25 °C ) (F2 ) 31.304 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa)
1
10
100
1 k
10 k
100 k
温度 (K)
38
44
50
58
69
85
原子特性
酸化数
−1 (弱い酸性酸化物 )
電気陰性度
3.98(ポーリングの値)
イオン化エネルギー
第1: 1681.0 kJ/mol
第2: 3374.2 kJ/mol
第3: 6050.4 kJ/mol
共有結合半径
57±3 pm
ファンデルワールス半径
147 pm
その他
結晶構造
立方晶系
磁性
反磁性
熱伝導率
(300 K) 27.7 m W/(m⋅K)
CAS登録番号
7782-41-4
主な同位体
詳細はフッ素の同位体 を参照
原子の手を含めたフッ素原子の3次元図
隣り合ったフッ素原子の距離を示した2次元図で、距離は143ピコメートルである
フッ素 (フッそ、弗素、英 : fluorine 、羅 : fluorum 、独 : Fluor )は、原子番号 9の元素 である。元素記号 はF [ 1] 。原子量 は18.9984。ハロゲン のひとつ。
また、同元素の単体 であるフッ素分子 (F2 、二弗素)も、一般的にフッ素 と呼ばれる。
名称
フランスのアンドレ=マリ・アンペール が「fluorine」と名付けた。この名前は蛍石 (Fluorite)にちなんでいる[ 2] 。
アンペールはその後、「phthorine」に名前を改めた。ギリシア語 の「破壊的な」という語に由来している。ギリシア語は、アンペールの新名称(Φθόριο )を採用した。
しかしながら、イギリス のハンフリー・デーヴィー が「fluorine」を使い続けたため、多くの言語では「fluorine」に由来する名称が定着した。日本語の「弗素」も、宇田川榕菴 が音訳した弗律阿里涅(フリュオリネ)が由来である[ 3] 。
歴史
古くから製鉄 などにおいて、フッ素の化合物 である蛍石(CaF2 )が融剤 として用いられた[ 4] 。たとえば、ドイツ の鉱物学 者ゲオルク・アグリコラ は1530年 に著書『ベルマヌス(Bermannus, sive de re metallica dialogus )』において、蛍石を炎の中で加熱し、融解させると、融剤として適切であると記している[ 4] 。1670年 には、ドイツのガラス 加工業者のハインリッヒ・シュヴァンハルト(Heinrich Schwanhard)が蛍石の酸溶解物にガラスをエッチング する作用があることに気づいた。
蛍石に硫酸 を加えると発生するフッ化水素 は1771年 、カール・シェーレ が発見していた。
フランスのアンドレ=マリ・アンペール は、未知の元素が蛍石(Fluorite)に含まれる可能性から、未発見の新元素に「fluorine」と名付けた。彼は、フッ化水素 と塩化水素 の組成がフッ素と塩素 の違いだけであると主張した。
しかし、フッ化水素の研究は進まなかった。酸素 を発見したアントワーヌ・ラヴォアジェ も、単離 には至らなかった。
1800年 、イタリア のアレッサンドロ・ボルタ が発見した電池 が、電気分解 という元素発見にきわめて有効な武器をもたらした。デービーは1806年 から電気化学 の研究を始めると、カリウム 、ナトリウム 、カルシウム 、ストロンチウム 、マグネシウム 、バリウム 、ホウ素 を次々と単離した。しかし1813年 の実験では、電気分解の結果、漏れ出たフッ素で短時間の中毒に陥ってしまう。デービーの能力をもってしてもフッ素は単離できなかった。単体のフッ素の酸化力 の高さゆえである。実験器具自体が破壊されるばかりか、人体に有害なフッ素を分離・保管することもできない。
アイルランド のクノックス兄弟は実験中に中毒になり、1人は3年間寝たきりになってしまう。ベルギー のPaulin Louyetとフランス のジェローム・ニクレも相次いで死亡する。1869年 、ジョージ・ゴアは無水 フッ化水素に直流 電流を流して、水素とフッ素を得たが、即座に爆発的な反応が起きた。しかし、偶然にもけがひとつなかったという。
1886年 、ようやくアンリ・モアッサン が単離に成功する[ 2] 。白金 ・イリジウム 電極を用いたこと、蛍石をフッ素の捕集容器に使ったこと、電気分解を−50 °Cという低温下で進めたことが成功の鍵だった。当時は材料にも工夫があり、フッ化水素カリウム (KHF2 )の無水フッ化水素 (HF)溶液を用いた。さらに、この分解は銅製の容器中で行われた。これは、モアッサンがフッ素やフッ化物 はフッ化銅 と反応しないということを発見したためで、発生したフッ素の一部を銅と反応させることで、フッ化銅を発生させ、安定して保存できるようにした[ 5] 。しかしモアッサンも無傷というわけにはいかず、この実験の過程で片目の視力を失っている。フッ素単離の功績から、1906年 のノーベル化学賞 はモアッサンが獲得した[ 4] 。翌年、モアッサンは急死しているが、フッ素単離と急死との関係は不明である。
以上のような単離への挑戦の歴史や、反応性の高さから単体のフッ素は自然界に存在しないと考えられてきたが、2012年に鉱物アントゾナイト にフッ素分子が含まれていることが確認された[ 6] 。
分布
反応性が高いため、天然には蛍石 や氷晶石 などとして存在し、基本的に単体 では存在しない。
性質
電気陰性度 は4.0で全元素中でもっとも大きく[ 5] 、化合物 中では常に−1の酸化数 を取る。
単体 は通常、二原子分子のF2 として存在する。常温常圧では淡黄褐色で特有の臭い(塩素 のようとも、きな臭いとも称される)を持つ気体 。非常に強い酸化 作用があり、猛毒。
分子量 37.9968、融点 −219 °C、沸点 −188 °C[ 5] 、比重 1.11(沸点時、空気を1とする)。反応性がきわめて高く、ヘリウム とネオン 以外のほとんどの単体元素を酸化 して、化合物(フッ化物 )を作る。
ガラスや白金 さえも侵すため、その性質上、単体で保存することは実質的に不可能である。もっぱら単体よりも穏やかな化合物の状態で保存され、容器には化合物であっても侵されにくいポリエチレン 製の瓶や、テフロン コーティングされた容器が用いられる。単体はフッ化水素(HF)を電解するか、フッ化水素カリウム(KHF2 )を電解することで得られる。
フッ素は固体状態において、2個の結晶構造をとる。−227.55 °C以下では単斜晶系のα-フッ素が、−227.55〜−219.62 °Cの間では立方晶系のβ-フッ素が最も安定となる。
人体への影響
必須微量元素 のひとつであると主張する学術団体がある。欠乏と過剰になる量の範囲が狭い(歯のフッ素症#食事摂取基準 を参照)。フッ素のサプリメント は、日本 国外では製品化されているが、日本国内での製品化は難しいと主張されることもある。おもな摂取源は飲料水と動物の骨などである。
フッ素の過剰摂取は骨硬化症、脂質代謝障害、糖質代謝障害と関連がある(フッ素症 を参照)。
フッ素の化学反応
フッ素の単体は酸化力が強く、ほとんどすべての元素と反応する。
用途
その性質上、フッ素を単体で使う場面は少なく、フッ化カルシウム (CaF2 )と硫酸 (H2 SO4 )から生成するフッ化水素(HF)を介して利用されることが多い。ウラン235 (235 U)濃縮のため、揮発性の高い六フッ化ウラン (UF6 )を製造する目的で単体フッ素が利用されることは、特筆すべき事柄である。
フッ素を添加した合成樹脂 やゴム は、酸 ・アルカリ 性の薬品や摩耗などに対して耐久性が高まるため、半導体 製造装置や自動車などの部品 ・部材に使われる[ 8] [ 9] 。
フッ素の化合物は、一般にきわめて安定しており、長期間変質しないという特徴を持つ。この性質は環境中で分解されにくく、いつまでも残存するということを意味しており、その使用には注意が必要である。
フッ化物#利用 も参照
エキシマレーザー
エキシマレーザー の発振 媒体としてフッ素ガスと貴ガス の混合ガスが用いられる。たとえば半導体の露光 に用いられるArFレーザーがその代表である。配管にはフッ素との反応で不動態 を形成することにより、それ以上腐食が進行しにくい銅 などが用いられる。さらにガス漏洩時には迅速にバルブ が遮断されるような安全装置も組み込まれている。
歯科
歯 の表面処理に有効であり、歯磨き粉 や歯科治療に使われるほか、フッ素水道 など水道水 に混入する国や租借地がある。
屈折率の制御
フッ素にはガラスの屈折率 を低下させる働きがあるため、光ファイバー など通信 の分野において、その屈折率制御にフッ素が使われている。
ロケット
単体のフッ素やClF5 などの化合物はロケット燃料 の酸化剤 として、1950–1970年ごろにかけアメリカ航空宇宙局 (NASA)を含むいくつかの機関で検討されたことがある[ 10] 。たとえばNASA では、液体酸素 の代わりに液体酸素-液体フッ素の混合物(フッ素を70 %含むFLOX-70や、同30 %含むFLOX-30など)をアトラスロケット のエンジンを用いて試験しており[ 11] 、ソビエト連邦 でも同様の実験が行われていた[ 12] 。これはフッ素を酸化剤 として使用した場合の比推力 が酸素を用いた場合を上回るためであったが、性能向上がわずかであったのに対し、フッ素の毒性 や腐食性 に伴う危険性ゆえに取り扱い上の困難が非常に大きく、結局ロケット燃料としての利用に関しては断念されることとなった[ 13] 。
クリーニング
半導体 や液晶 の製造装置の反応管、ボート、石英ノズルなどに発生する副生成物を除去するためのクリーニングガスとしてフッ素ガスが使われている。
フッ素の化合物
フッ素の化合物はフッ化物 と呼ばれる。
金属のフッ化物
非金属のフッ化物
フッ素のオキソ酸
フッ素のオキソ酸 は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。
オキソ酸の名称
化学式 (酸化数)
オキソ酸塩の名称
備考
次亜フッ素酸 (hypofluorous acid)
HFO (−I)
次亜フッ素酸塩 ( - hypofluorite)
オキソ酸塩名称の「-」にはカチオン 種の名称が入る。
存在しにくい(できない)化合物
フッ素はヘリウム やネオン とは結合しない。また、アルゴン やラザホージウム はフッ素と反応しにくいことがわかっている。それ以降の元素については、あまりよくわかっていない。
その他
モノフルオロ酢酸 (
CH
2
FCOOH
{\displaystyle {\ce {CH2FCOOH}}}
)
テフロン
ポリフッ化ビニル
マジック酸 (
FSO
2
OH
{\displaystyle {\ce {FSO2OH}}}
•
SbF
5
{\displaystyle {\ce {SbF5}}}
)
ヘキサフルオロリン酸リチウム (
LiPF
6
{\displaystyle {\ce {LiPF6}}}
)
シアン酸フッ素 (
FOCN
{\displaystyle {\ce {FOCN}}}
)
同位体
数多くの同位体 がある中で、安定同位体は19 Fのみである。
出典
^ Storer, Frank Humphreys (1864). First outlines of a dictionary of solubilities of chemical substances . Cambridge. pp. 278–280
^ a b “フッ素 - イラスト周期表 ”. 愛知教育大学. 2022年6月14日 閲覧。
^ ニュートン式超図解最強に面白い!! 周期表
^ a b c 丹羽源男 (1995年9月). “フッ素 - 推測と発見、単離をめぐる人々 ” (PDF). 日本歯科医史学会. 2022年6月14日 閲覧。
^ a b c d e 『元素を知る事典』海鳴社、2004年11月、79-80頁。ISBN 9784875252207 。
^ 自然界に単体フッ素=鉱物で確認、定説覆す-独大学 [リンク切れ ] 時事ドットコム 2012年7月6日
^ https://www.youtube.com/watch?v=1p3bWWJsLxI&feature=related (英語)
^ 「ダイキン、独にフッ素樹脂開発拠点」 『日本経済新聞』電子版(2018年8月9日)2018年9月19日閲覧。
^ 「ダイキン、フッ素化学拠点に100億円 IoT向け需要増」 『日本経済新聞』朝刊2018年9月4日(2018年9月19日閲覧)。
^ 長倉三郎 ら編、「フッ素」、『岩波理化学辞典』、第5版CD-ROM版、岩波書店、1999年
^ J. D. Clark, Ignition!: An informal history of liquid rocket propellants, Rutgers University Press, 1972.
^ F. J. Krieger, "The Russian Literature on Rocket Propellant", The Rand Corporation, 1960.
^ G. P. Sutton and "O. Biblarz, Rocket Propulsion Elements 8th Ed.", Wiley, 2011.
^ 岩井 伯隆. “フッ素と環境 ”. 2022年6月14日 閲覧。
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
フッ素 に関連するメディアがあります。
外部リンク