岡崎電気軌道100形電車(おかざきでんききどう100がたでんしゃ)は、名古屋鉄道(名鉄)の前身事業者の一つである岡崎電気軌道が1923年(大正12年)に導入した路面電車車両である。軌道線康生町電停 - 岡崎井田電停間の延伸に備えて製造された木造四軸ボギー車で、岡崎市内線では希少な大型車両であった[注釈 1]。名鉄合併後、本形式はモ530形と改称・改番された。
構造
名古屋電気製作所製の12m級ダブルルーフ車体を備える木造ボギー車である。8m級二軸単車だった従来の車両の定員42-50名(座席10-14名)に対し本形式は定員70名、座席22名に増加しており、輸送力が向上している。窓は前面3枚、側面12枚で側面窓配置はV 2 2 2 2 2 2 V(V:乗降デッキ、数値は側窓の枚数)。窓の框は上部が曲線状になっていたが、モ532(旧102)は後年に前面中央窓が直線化されていた。前面中央窓の下には前照灯、上部には方向幕を装備する(前照灯は太平洋戦争終戦後、屋根上に移設された)。乗降口は原型ではオープンデッキだったが、1953年(昭和28年)にモ532(旧102)、1955年(昭和30年)にモ531(旧101)、に扉が取り付けられた。
台車はブリル製76-E1、車体下部にはトラス棒を備える。空調設備としてトルペード形ベンチレーターをダブルルーフの採光窓の箇所に左右5基ずつ装備。当初は2両ともベンチレーターの突端を地面に向けていたが、モ531(旧101)は後に進行方向に変更された。
主電動機はシーメンス製D561(50 馬力)を2基搭載。制御装置は同社製OA-6直接制御器を使用。制動装置はこれまでの単車が装備した手ブレーキ等に加えてウェスティングハウス・エレクトリック製SM-3直通空気ブレーキが設けられた。集電装置は車体前後にトロリーポールを各1本搭載したが、1952年(昭和27年)頃にビューゲルに換装された。
運用
主に福岡線直通運用(福岡町駅 - 大樹寺駅間)に使用された。岡崎市内線唯一[注釈 1]の大型車であり、朝夕ラッシュ時の輸送力確保に役立ったという。
1962年(昭和37年)に岡崎市内線が廃止されると岐阜市内線へ転属したが、同線で使用されることはなく、翌1963年(昭和38年)8月に廃車解体された。
脚注
注釈
- ^ a b 岡崎市内線を走行したボギー車は他に200形とキ10形がある。これらは鉄道線区の車両であり、岡崎線(後の挙母線)から岡崎市内線への直通運用に使用された。いずれも1941年までに他線区へ転属したため、岡崎市内線での運用期間は本形式と比べて短い。
出典
参考文献
- 名古屋鉄道『写真が語る名鉄80年』名古屋鉄道、1975年。
- 白井良和「名古屋鉄道の車両前史 現在の名鉄を構成した各社の車両」『鉄道ピクトリアル』第473号、電気車研究会、1986年12月、166 - 176頁。
- 加藤久爾夫、渡辺肇「私鉄車両めぐり 名古屋鉄道」『鉄道ピクトリアル アーカイブスセレクション』第30号、電気車研究会、2015年1月、122 - 165頁。
- 日本路面電車同好会名古屋支部(編)『路面電車と街並み 岐阜・岡崎・豊橋』トンボ出版、1999年。ISBN 978-4887161245。
- 藤井建『名鉄岡崎市内線―岡崎市電ものがたり』ネコ・パブリッシング、2003年。ISBN 978-4777050055。
- 清水武『名鉄木造車鋼体化の系譜 3700系誕生まで』ネコ・パブリッシング、2015年。ISBN 978-4777053773。
- 清水武、田中義人『名古屋鉄道車両史 上巻』アルファベータブックス、2019年。ISBN 978-4865988475。
- 小寺幹久『名鉄電車ヒストリー』天夢人、2021年。ISBN 978-4635822695。
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1941年改番以降の形式称号を掲載。「引継車」は名岐鉄道および被合併会社から継承した車両。「譲受車」は被合併会社以外から購入・譲受した車両。 |