ツヴィッカウ市電 (ツヴィッカウしでん、ドイツ語 : Straßenbahn Zwickau )は、ドイツ (旧:東ドイツ )の都市・ツヴィッカウ 市内に路線網を有する路面電車 。2020年 現在はツヴィッカウ都市交通事業 (ドイツ語版 ) (Städtische Verkehrsbetriebe Zwickau、SVZ)によって運営されており、ツヴィッカウ・モデル とも呼ばれる、規格が異なる普通鉄道からの直通運転が行われている事でも知られている[1] [3] [8] 。
概要・歴史
開業から東ドイツ時代まで
ツヴィッカウ市内の路面電車の歴史は1892年 にニュルンベルク やマインツ の企業によるコンソーシアム による市内の軌道交通や発電所の建設がツヴィッカウ市によって認可された事に始まった。翌1893年 に発電所の稼働が開始した後、1894年 4月 からは路面電車の試運転が始まり、翌月の5月6日 、ツヴィッカウ市電は営業運転を開始した。以降は路線の延伸が続き、1926年 に系統名が色から数字に変更された時点で4つの系統が存在した。また、その間の1916年 にはツヴィッカウ市電や発電所の運営権がコンソーシアムからツヴィッカウ市に移管され、1927年 からは路線バス の運行も開始された[3] 。
1936年 にはツヴィッカウ中央駅 (ドイツ語版 ) が開業した事に合わせて折り返し用ループ線 を備えた路線の延伸が実施され、1938年 に開設されたトロリーバス [注釈 1] と共にツヴィッカウ市電は重要な市内の公共交通機関として活躍したが、第二次世界大戦 中は一部の系統の運休を余儀なくされ、1945年 4月 には空襲 により全区間の営業運転が停止した。ドイツ の敗戦後の5月 以降は運行が再開されたものの、アメリカ軍 とソビエト連邦軍 の占領区域の影響により、3号線については区間を縮小したうえで復旧工事が行われた[3] 。
戦後、東ドイツ の路線となったツヴィッカウ市電を始めとするツヴィッカウ市の公共交通機関は、幾度かの再編を経て1951年 以降人民公社 であるツヴィッカウ市輸送会社(VEB Verkehrsbetrieb der Stadt Zwickau)によって運営される事となった。路線の再度の拡大は1962年 から実施され、1965年 からは乗客自身が乗車券に刻印を行う信用乗車方式 に移行した。その一方で1975年 には路線バス路線の拡張により旧市街に路線を有していた3号線が廃止されている。その後、1982年 に運営組織が再編され、カール=マルクス=シュタット県 が運営するツヴィッカウ都市交通輸送会社(VEB Städtischer Nahverkehr Zwickau)となった[3] 。
車両については開業時から長らく2軸車 が使用されていたが、1987年 に初の連接車 となるKT4D の導入が開始された。当初はプラウエン (プラウエン市電 )からの転属車両が使用されたが、後にチェコスロバキア (現:チェコ )のČKDタトラ 製の新造車両も導入された。KT4Dはその後のツヴィッカウ市電の主力車両となり、1989年 に延伸された1号線の区間にもKT4Dが集中的に導入された[3] 。
ドイツ再統一後
ドイツ再統一 直前の1990年 にツヴィッカウ市都市交通輸送会社(Städtischer Nahverkehr Zwickau GmbH)に再編された後、1991年 以降路面電車を含むツヴィッカウ市の公共交通機関はツヴィッカウ都市交通事業 (ドイツ語版 ) (Städtische Verkehrsbetriebe Zwickau、SVZ)によって運営されている。同組織は設立以降ツヴィッカウ市電の積極的な近代化(ライトレール 化)を推し進めており、1992年 には2号線の延伸が行われ、1999年 10月1日 には旧市街の路線・3号線が事実上の復活を果たし、2005年 にも2号線の更なる延伸が実施されている。また車両についても1993年 以降超低床電車 の導入が行われ、長らく使用されていた2軸車 (ゴータカー )は1995年 10月28日 をもって営業運転を終了している。2019年 には開通から125周年を迎え、東ドイツ時代から使用されているKT4Dの塗装復元や車庫の一般公開などのイベントが開催されているが、東ドイツ 時代に敷設された路線や施設の老朽化が課題となっており、後述の通り長期運休を余儀なくされている路線も現れている[3] [6] [8] [9] [4] 。
ツヴィッカウ・モデル
1999年 に開通した路線(3号線)のうち、シュタットハレ駅(Stadthalle)から旧市街にあるツヴィッカウ・チェントルム駅(Zwickau-Zentrum)までの全長1.4 kmの区間には、ツヴィッカウ郊外で列車の運行を行っているフォークトラント鉄道 (ドイツ語版 ) (Vogtlandbahn)[注釈 2] の気動車 が直通運転(片乗り入れ)を実施している。フォークトラント鉄道(1,435 mm )とツヴィッカウ市電(1,000 mm )は軌間 が異なるため、直通区間には双方の軌間に対応した三線軌道 が敷かれている他、直通運転に使用される気動車についてはブレーキランプやウィンカーなどドイツ の路面電車規格(BOStrab (ドイツ語版 ) )に適する機器が搭載されている。また、同時に運用が始まったツヴィッカウ中央駅 (ドイツ語版 ) からグリュック・アウフ・センター駅までのフォークトラント鉄道の区間については、廃止された貨物鉄道の線路が転用されている[6] [8] [10] [11] 。
1999年 5月30日 に実施されたダイヤ改正で直通運転のダイヤが設定され、ツヴィッカウ市電の電車よりも先に乗り入れが始まった。これにより、ツヴィッカウ中心部から離れた場所に位置するツヴィッカウ中央駅や郊外地域への利便性が大幅に向上した。開始当初に導入された車両はデュワグ とシーメンス が共同開発した低床気動車のレギオスプリンター (ドイツ語版 ) であったが、2020年 現在はシュタッドラー・レール が展開するレギオシャトルRS1 が用いられている[注釈 3] 。この運転形態は規格が異なる普通鉄道と路面電車を直通するトラムトレイン の1つとして位置づけられ、ツヴィッカウ・モデル(Zwickauer Modell ) とも呼ばれている[8] [10] [11] 。
運用
ツヴィッカウ市電の路線網のうち、ツヴィッカウ中央駅方面の区間については線路の老朽化が進み脱線の危険がある事から2019年 12月13日 以降長期に渡って運行を休止しており、改修工事の開始は早くても2023年 が見込まれている。そのため、2020年 現在これらの区間を走る系統は全て休止しており、ツヴィッカウ市電は以下の2系統でのみ運行されている[注釈 4] 。平日の始発列車の発車時刻は非常に早く、3号線は午前2時57分、4号線は午前3時10分から運行を開始する。また、8箇所の電停については利用時に事前の予約が必要なオンデマンド方式が用いられている[1] [4] [5] [12] [13] 。
系統番号
起点
終点
備考・参考
3
Eckersbach
Neuplanitz Abfahrt
始発列車 を含む一部列車は区間運転を実施[5] [12]
4
Städtisches Klinikum
Pölbitz
始発列車 を含む一部列車は区間運転を実施 Betriebshof Schlachthofstraße電停には一部列車のみ停車[5] [13]
車両
2020年 現在、ツヴィッカウ市電に在籍する営業用車両は2形式・31両である。また、これら以外にも営業運転を退いた旧型電車が4両現存し、1994年 に設立されたツヴィッカウ交通機関愛好協会(Freunde des Nahverkehrs Zwickau e.V.)による動態保存が実施されている[1] [2] [14] 。
KT4D
KT4D
かつてチェコスロバキア (現:チェコ )に存在した鉄道車両メーカーのČKDタトラ が製造した路面電車車両(タトラカー )。急曲線や狭い車両限界 など厳しい車両条件に適した構造を有する2車体連接車 で、1つの車体に1つのボギー台車が設置されている。ツヴィッカウ市電には東ドイツ末期の1987年 から1990年 にかけて導入されており、一部車両はプラウエン市電 からの転属車両であった。2020年 現在の在籍数は20両だが、そのうち1両は事業用車両 に改造されているため、営業運転に用いられるのは19両(928 - 949、一部欠番あり)である[1] [2] [15] 。
KT4D 主要諸元
導入年
編成
全長
全幅
重量
定員
出力
参考
着席
立席
主電動機
車両
1987 -90
3車体連接車
18,110mm
2,220mm
20.3t
34人
119人
40kw
160kw
[1] [2]
GT6M/NF
GT6M/NF
車内全体の床上高さが350 mmに統一された、バリアフリーに適した3車体連接式 の超低床電車 。ツヴィッカウ市電には旧東ドイツ 地域の路面電車における初の超低床電車として1993年 から1994年 にかけて12両(901 - 912)が導入され、残存していた2軸車 を完全に置き換えた。2010年代後半からはチェコ のセゲレツ(Cegelec a.s)とドイツ のドイツ鉄道車両整備会社(Deutschen Bahn Fahrzeuginstandhaltung GmbH)によって電気機器の交換、運転台の再設計、車内の整備および塗装変更など延命を兼ねた大規模な更新工事が行われる事が決定し、2019年 に完了した917を皮切りに2022年 までに全車の工事が完了している[1] [2] [6] [16] [17] 。
GT6M/NF 主要諸元
導入年
編成
全長
全幅
重量
定員
出力
参考
着席
立席
主電動機
車両
1993 -94
3車体連接車
27,260mm
2,300mm
28.0t
61人
131人
100kw
300kw
[1] [2]
動態保存車両
導入予定の車両
2019年 、ツヴィッカウ市電を運営するツヴィッカウ都市交通事業はライプツィヒ市電 (ライプツィヒ )とゲルリッツ市電 (ゲルリッツ )の運営事業者と共同で新型車両の導入を発表し、入札を経て2021年 にハイターブリック (ドイツ語版 ) とキーペ・エレクトリック (ドイツ語版 ) のコンソーシアムであるLEIWAG への発注が決定した。そのうちツヴィッカウ市電に導入される車両は全長30 m級の超低床電車 で、2023年 以降6両の導入が確定している他、オプション分として6両の追加発注も可能な契約が結ばれている[20] [21] [22] 。
脚注
注釈
^ ツヴィッカウ市内のトロリーバスは1977年 に廃止された。
^ フォークトラント鉄道は線路を有しておらず、ドイツ鉄道 が所有する路線で列車を運行する列車運行会社 である。
^ 2020年時点でフォークトラント鉄道が所有する17両の「レギオシャトル RS1」のうち、直通運転に対応しているのは8両である。
^ 2020年 現在、休止系統に代わって路線バス (10号線)による代行運転 が実施されている。
出典
外部リンク