デジタル庁 (デジタルちょう、英 : Digital Agency [9] )は、日本 の行政機関 のひとつ。デジタル 社会の形成に関する内閣 の事務を内閣官房 と共に助け、その行政 事務の迅速かつ重点的な遂行を図ることを目的として内閣に置かれる[10] 。2021年 (令和 3年)9月1日 に発足した[11] [12] 。
復興庁 と同様に[注釈 3] 国家行政組織法 の適用が除外されており[注釈 4] 、必要な事項はデジタル庁設置法 に規定されている。
国 ・地方行政 のIT 化やDX(デジタルトランスフォーメーション )の推進を目的としてIT分野を担当する[13] 。また、発足時における職員約600人のうち約200人は、IT企業など民間から起用している[14] 。
スローガンは、“Government as a Startup ”[15] 。
沿革
2021年9月1日に行われたデジタル庁発足式に官邸 からリモート出席した菅義偉 首相(モニター画面内は発足の挨拶を行う平井卓也 初代デジタル大臣 )
2020年 (令和2年)9月16日 に発足した菅義偉内閣 は、国全体のデジタル化 を看板政策に掲げてこの動きを加速させた。さまざまな協議を経た末に、同年11月26日 にはデジタル化の司令塔となるデジタル庁を2021年(令和3年)9月1日に発足させる基本方針が定まった[16] 。検討開始から設置までの期間は国家組織として異例の速さであり、デジタル改革担当大臣 として設置へむけての陣頭指揮を執っていた平井卓也 でさえも「通常ではありえないスピード」と驚くほどだった[17] 。
2021年5月12日には、デジタル庁関連6法案[注釈 5] が成立した。
また、マイナンバー の所管は総務省 や内閣府 からデジタル庁の一元的な体制に移行し、「令和4年(2022年 )度末にはほぼ全国民にマイナンバーカード が行き渡ることを目指す」としている[18] 。
職員のうち100名程度を民間から登用すべく、2020年12月時点で採用活動が開始された[19] [20] 。
機能及び位置づけ
内閣官房 デジタル改革関連法案準備室の職員に訓示する内閣総理大臣 ・菅義偉 。バックボードに「Government as a Startup」のロゴが見える(2020年9月30日、東京虎ノ門グローバルスクエアにて)
内閣官房 デジタル改革関連法案準備室立ち上げ会に出席した内閣総理大臣 ・菅義偉 (左)とデジタル改革担当大臣・平井卓也 (右)(2020年9月30日、東京虎ノ門グローバルスクエアにて)
かつて栄華を誇った日本のエレクトロニクス産業はアナログからデジタルへの移行にかけて急激に衰退し、「デジタル敗戦」と呼ばれるような状況に陥った[21] 。これまでの政府におけるデジタル戦略は、内閣官房IT総合戦略室 が所管してきたが、デジタル庁は、その発展的な新組織体と位置づけられる。デジタル化 の速やかな推進を目的に、その障害となっている府省間の縦割りを打破すべく、各府省に対する司令塔として、予算 を含めた企画立案と統括・監理の強い権限、さらに、勧告等を含めた総合調整の役割を与える計画である[18] 。
又、国のデジタル化について、「単に情報システムを整備する、手続をオンライン化する、手続に係る費用を削減する、オンライン利用率を上げるということを意味するものではない」とし、「サービス設計12か条」に基づく行政サービス改革・業務改革(BPR)[22] [23] の徹底を基本方針としている[24] 。
このことは、「デジタル・ガバメント実行計画 」(2020年(令和2年)12月25日に閣議決定で改定[25] )の冒頭で強調されている「デジタル技術やデータを活用して、利用者目線に立って新たな価値を創出するデジタルトランスフォーメーション (DX)」そのものであり、「これまでのデジタル化のように、紙や対面で行っていた手続を単にオンラインでできるようにするなど、従来のやり方をデジタルに置き換えるだけの、いわゆるdigitization(デジタイゼーション )ではなく、デジタルを前提とした次の時代の新たな社会基盤を構築するというdigitalization(デジタライゼーション )の観点の重要性」を具現化するものでもある[24] 。また、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(令和2年12月25日閣議決定)では、デジタルトランスフォーメーション・デジタライゼーションを実現していく上での手法・思想として、「オープン・透明」(標準化や情報公開による官民の連携など)、「迅速・柔軟」(「小さく産んで大きく育てる」という考え方、変化に柔軟に対応できるシステムの形成、アジャイル 発想など)などといった基本原則も明示された。
このような抜本的なデジタル改革・業務改革を担う「デジタル人材」については、「優秀な人材が民間、自治体、政府を行き来しながらキャリアを積める環境を整備する」という流動性の高い人材像・キャリアパス (いわゆる「回転ドア方式」)を描くとともに、2021年(令和3年)度前半には、「政府機関におけるセキュリティ・IT人材育成総合強化方針」を改定するとしている[18] 。ITをバックグランドとしない一般職員についても、これまで総務省が行ってきた府省共通の「情報システム統一研修」を改善・強化し、「橋渡し人材」(ITに関する「高度専門人材」と「一般行政部門」との橋渡しができる人材)の質・量を一層充実させる方針(特に課長補佐級)が打ち出されている[24] 。
ただし、このような改革の試みは、「情報」の属人性や偏在を排し、その透明性・流通性を高めるものでもあるため、これまで「情報」を権力の源泉としてきた組織や層の抵抗が不可避との悲観的観測もある[26] 。
内閣情報通信政策監 は廃止され、デジタル監が設置される[注釈 6] 。デジタル庁の事務次官に相当するが、他省庁の事務次官と異なり、特別職 である。初代デジタル監については、一橋大学 名誉教授の石倉洋子 が起用された[29] [30] 。
又、次官級審議官 に該当するデジタル審議官も置かれる。
デジタル庁については国家行政組織法の適用が除外[注釈 7] されており、必要な規定はデジタル庁設置法に規定している。
建制順 では、組織としてのデジタル庁は府省と同列で、内閣府 の次、総務省 の前となるが、デジタル大臣は主任の大臣 でないため、大臣の並びとしては内閣官房長官 の次、となり、同様の立場の復興大臣がその次となり、ついで国家公安委員会委員長 の順となる。デジタル副大臣 については、副大臣の筆頭となり、(復興副大臣、「内閣府副大臣 の前。内閣官房副長官 を副大臣相当と扱う場合はデジタル副大臣がその次)となる。デジタル大臣政務官 も同様に政務官の筆頭である。
内閣総理大臣は、デジタル庁の命令(他府省の府令 ・省令 に相当するもの)として「デジタル庁令 」を発することができる。
役割
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2022年6月7日閣議決定)では、"司令塔としてのデジタル庁の設置"により担うべき10の役割の1番目に「国、地方公共団体、民間・準公共分野を含むデジタル社会のトータルデザインを描き、国民が体感できる形で早期にその実現を図ること」が掲げられている。
デジタル社会の実現に向けて取り組むにあたって、デジタル庁は、3つの柱にあたる「1 生活者、事業者、職員にやさしい公共サービスの提供」「2 デジタル基盤の整備による成長戦略の推進」「3 安全安心で強靭なデジタル基盤の実現」をデジタル庁全体戦略として定義している[31] 。
対象業務
デジタル庁が、予算要求や調達を直接担うのは政府 機関(国の行政機関)の情報システムに限られるが、情報システムの統括・監理などとしては、政府機関の情報システムだけでなく、地方公共団体 、更に広く公共サービスに関する情報システムを対象業務とすることが想定されている[18] 。すなわち、各地方公共団体 が、それぞれの条例 に基づいて別々にシステムを構築していることでデータ連携などが阻害されている現状に対し、法律 ・条例によってシステムを縛るのではなく、システムをデザインしてからそれにあわせて法律・条例を作るべき、自治の独立性とシステム・データの独立性を分けて考えるべきとの指摘がされている[32] 。
ここには司法 分野の情報システムも含まれており、2020年(令和2年)7月17日 に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」も、裁判手続等のIT化 として、司法府 における自律的判断を尊重するとの前提を明記した上で、民事訴訟 における主張証拠のオンライン提出などを可能な限り早期に実現すべき課題とするほか、刑事 分野についても、捜査 ・公判 のデジタル化方策の検討を開始するとしており、国全体のデジタル化を進める上で、独立性に配慮しながら、司法府とも協調・連携していく姿勢を明らかにしている[33] (デジタル化の先進事例とされるイギリスのDirectgov (英語版 ) も、司法関連情報を包含したワン・ストップ・サービス のポータルサイトとなっている)。
また、地方公共団体情報システム機構 を総務省 と共管し、マイナンバーカードの発行・運営体制の抜本的強化を行うことも、その業務とされている[注釈 8] 。
組織
デジタル庁発足式に出席したデジタル大臣平井卓也 (右から2人目)、デジタル副大臣藤井比早之 (左から2人目)、デジタル大臣政務官岡下昌平 (右端)、デジタル監石倉洋子 (左端)(2021年9月1日、東京ガーデンテラス紀尾井町 にて - いずれもデジタル庁発足時の任官者)
デジタル庁の内部組織は、法律(デジタル庁設置法 )、政令(デジタル庁組織令 )及びデジタル庁令(デジタル庁組織規則 )が階層的に規定している。個々に権限を規定した組織(局、部、課)を設置せず、局長級の統括官、課長級の参事官を設置するなど幹部職員の定数を定めるのみとなっている。
幹部
内部部局
組織図
デジタル庁の組織図は次のとおりである[36] (2021年9月1日現在)。
デジタル社会推進会議
沿革 のとおりデジタル社会形成基本法 が成立したため、これまでの高度情報通信ネットワーク社会形成基本法 (IT基本法)は廃止された[37] 。これまでのIT基本法に基づいて、全閣僚・有識者等からなる高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 (IT総合戦略本部)が内閣に置かれる[38] 。
デジタル庁の発足にあわせて、新たにデジタル社会推進会議 (内閣総理大臣が議長を務め、全閣僚等で構成)がデジタル庁に置かれて責任体制を明確にするとともに、デジタル大臣が招集者となって学識経験者からなるデジタル社会構想会議 [3] が開催され、新たな重点計画の策定に向けて調査・審議が行われる[4] 。
幹部職員
デジタル庁の政務三役を除く幹部職員[注釈 9] は以下の通りである[39] 。
デジタル監 - 浅沼尚
デジタル審議官 - 二宮清治
戦略・組織グループ長(統括官) - 冨安泰一郎
戦略・組織グループ次長(統括官付審議官) - 平塚敦之
戦略・組織グループ次長(統括官付審議官) - 山本和徳
戦略・組織グループ特命担当次長(総務省大臣官房付兼デジタル庁統括官付) - 湯本博信
デジタル社会共通機能グループ長(統括官) - 楠正憲
デジタル社会共通機能グループ次長(統括官付審議官) - 阿部知明
国民向けサービスグループ長(統括官) - 村上敬亮
国民向けサービスグループ次長(統括官付審議官) - 犬童周作
国民向けサービスグループ次長(統括官付審議官) - 内山博之
省庁業務サービスグループ長(統括官) - 布施田英生
省庁業務サービスグループ次長(統括官付審議官) - 菅原希
省庁業務サービスグループ次長(統括官付審議官) - 早瀬千善
デジタル庁は、グループ制をとっており、カッコ内は官職の発令事項。
所管法人
総務省の所管する法人 のうち、地方公共団体情報システム機構 [注釈 10] を共管する[40] [注釈 8] 。
財政
2024年度(令和6年度)一般会計 当初予算におけるデジタル庁所管歳出予算は、4964億703万円8千円である[8] 。
国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、デジタル庁、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省および防衛省が所管する東日本大震災復興特別会計 を共管[注釈 11] する。
職員
人員は500名程度とする計画で[18] 、そのうち100名程度を民間から登用すべく、2020年12月時点で採用活動が開始された[20] 。結果的には発足時における職員約600人のうち、民間出身者は約200人が起用された[14] 。
行政機関職員定員令に定められた2024年度のデジタル庁の定員は546人である[7] 。この定数には特別職[注釈 12] は含まない。
2024年度一般会計予算における予算定員は特別職3人、一般職546人の計549人である[41] 。
ブランディング
Digital Red
Digital Green
Digital Blue[42]
White
Digital Primaly Black[42]
ロゴタイプ
デジタル庁ではシンボルマーク を設定せずロゴタイプ のみとしており、ロゴタイプのフォント はオープンソース書体 を選択し、数あるなかから、「環境によって表示できない文字をなくす挑戦から生まれた」Noto Sans を採用している[42] 。
シンボルカラーは白と黒で「多様性のあるデジタル社会を目指し、横断的に関わりながら共に創る姿勢を体現し、シンプルな色使いとしています」と説明されている[42] 。その他に、アクセントカラーとしてRGB から日本の伝統色を取り入れて調整した「Digital Red」「Digital Green」「Digital Blue」を採用している[42] 。
関連紛争や諸問題
批判
不祥事
NTT社長らによる接待報道
平井卓也 がデジタル担当大臣に就任した後、2020年10月2日と12月4日の2回にわたって、五輪アプリを受注しているNTT グループが運営する高級会員制レストラン「KNOX」で、平井がNTTの澤田純 社長から接待を受けていた疑いがあることを、2021年6月に週刊文春 が報じた[62] [63] 。さらに、平井の側近である内閣官房IT総合戦略室の向井治紀室長代理が、新たに2020年10月から3カ月連続で接待を受けていた疑いがあることを、2021年6月に週刊文春が報じた[63] 。
2021年09月24日、過剰な接待を受けていたとして赤石浩一デジタル審議官を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分にした[64] 。赤石は内閣官房イノベーション統括官だった昨年9月から12月に、3回にわたり飲食やタクシー代など計約12万円の接待を受けていた[64] 。
平井は2021年9月28日の記者会見で、支払い前に会食に関する週刊文春からの取材が来ていたことを認め、「NTTに確認して(6月)21日に請求を受けて、3人分、計22万円を支払った」「私の費用負担ですね。私と同席していた事務方の分をきっちりと支払っております。これは先方からの請求どおり、割り勘として問題のないようにきっちり払った」などと経緯を説明したが、平井がNTTに確認した上で費用を支払ったのは、週刊文春が赤石と向井の同席について確認を求めた2021年6月21日当日のことだった[65] 。
度重なる情報漏洩やシステムの不具合
この節は検証可能 な参考文献や出典 が全く示されていないか、不十分です。 出典を追加 して記事の信頼性向上にご協力ください。(このテンプレートの使い方 ) 出典検索? : "デジタル庁" – ニュース · 書籍 · スカラー · CiNii · J-STAGE · NDL · dlib.jp · ジャパンサーチ · TWL (2023年6月 )
「gBizID(GビズID)」のシステム不具合による、利用者の個人情報の漏洩が発生。事業者が同サービスから自社の従業員の利用者情報を取得する際に、特定の操作をすると他社の利用者情報を取得できてしまうという状況が、2020年3月の稼働開始時から2年後に判明した。
デジタル庁の担当者が電子メール を送る際、BCC欄に入力するメールアドレス を誤ってTO欄に記載し、電子メールを受け取った人が他の人のメールアドレスを取得できる状態になった。
デジタル庁が運用する電子政府の総合窓口「e-Gov」利用者サポートデスクで、運用を受託している事業者が問い合わせに対する回答メールの送信先を誤り、問い合わせをしてきた人のメールアドレスが流出した。
デジタル庁担当者が記者にメールを送る際、BCC欄に入力すべきメールアドレス408件をCC欄に記載して送信した。
新型コロナウイルスの「ワクチン接種記録システム(VRS)」に登録された個人の接種歴約1億件のうち約500万件は、内容に誤りがあるか、誤っている可能性があることが判明した。これに伴い、予診票などをもとにデータを修正してもVRS上でロックする機能がなく、誤ったデータによって上書きされるといった不具合が発生。SNS上でも、上書きが実際に起きた複数の例が報告されている。
被保険者番号が正確に表示されないケースが約3000件、誤入力が約4000件、健康保険組合などが個人番号を登録していないケースが約180万件あったことが判明した。
個人情報保護委員会による行政指導
2023年9月20日、個人情報保護委員会 はマイナンバーに他人の銀行口座が登録されていた問題を受け、デジタル庁に対し行政指導を行った[66] 。
脚注
注釈
出典
関連項目
外部リンク