代表的なCOIN機 OV-10
COIN機 (コインき)は、不正規戦 のために使用される軽攻撃機 の一種。Co unter In surgency(対暴動 )の略。
概要
ゲリラ 組織の人員や建物・車両を標的とする軽攻撃機 の一種。高価で複雑にして大型化の傾向が強い正規戦用の攻撃機に対し、より安価かつ簡便な利用を目的とした位置づけにある。専用に開発される場合もあるが、おもに輸送機 や練習機 などが流用もしくは改造される例が多い。米軍 では、ガンシップ が類似の目的に使用されている。
近年ではエンジン 性能の向上や小型軽量化のほか、射撃管制装置 の向上、軽量装甲 ・射出座席 の採用など、最新の技術が導入されている。そのため、能力も生存性も高まっており、実戦に耐えうる機種として注目を集めている。ただし、先進国 軍(特に米軍)のCOIN機相当任務には無人航空機 が充てられることが増え、その流れは中進国軍から武装勢力に迄及んで来ている。
歴史
第二次世界大戦 後、アルジェリア戦争 でフランス軍 がT-6 テキサン練習機 やT-28 トロージャン練習機 、国産のブルサール軽輸送機 を武装 して運用したことが嚆矢となり、冷戦 の到来に伴い、各地で共産主義革命 の恐れが高まる中、ベトナム戦争 に突入したアメリカ で注目された機種である。
基本的に高性能のレーダー や爆撃 照準 コンピュータ を搭載せず、誘導爆弾 や空対地ミサイル の運用機能も無く、もっぱら目視と地上からの誘導により、機銃掃射 や無誘導爆弾 、ロケット弾 によって目標を攻撃する。このことからパイロット には必ずしも高度な技術を必要としない。ただし、それだけに地上との連携と通信 が不可欠であり、空中管制 任務や観測 任務を兼ね合わせることが多い。
COIN機は練習機 、連絡機 、観測機 、輸送機 が母体となるケースがほとんどで、純粋なCOIN機として設計されたものは少ない。時として、イギリス のBAeホーク シリーズ(ホーク200)やフォーランド ナット (ナット単座型)のように練習・COIN兼用機から改良を重ねて軽戦闘機 になったケースもある。
練習機のケースが一番多く、パイロットの練度が低く本格的な戦闘 /攻撃機 を必要としない(あるいは維持できない)経済規模の小さな発展途上国 では、COIN機を兼ねた練習機が射出装置などを追加して空軍 の「主力」とされることも多い。ベトナム戦争で実戦に参加し、その後南米 に多く供与されたA-37 ドラゴンフライ は、もともとT-37 トゥーイート練習機 である。南米においては固定機銃 を用い、麻薬 密輸 機を捕捉するなど特殊な任務に利用されている。また、フランス のマジステール CM-170 は武器搭載量こそ少ないものの、基本的なCOIN任務に対応できることからアフリカ 諸国を中心に長きに亘って採用された。中東戦争 ・コンゴ動乱 においては軽攻撃機として活動し、特に中東戦争ではイスラエル空軍 の爆撃任務を負ったほか、ソ連 製の傑作機として知られるアラブ側のMiG-21 とも対戦している。イスラエル においては後に「ツヅキッド」と呼ばれる改良型も生産された。
連絡機や観測機としてはO-2 があり、これは、元々セスナ 337といわれる民間用の双発プロペラ機であった。O-2Aはこれに装甲 を施し、主翼 に爆弾 やロケット弾の装着を可能とした機体である。ベトナム戦争中、米空軍 はこれを直接のCOIN任務には使用せず、もっぱら空中前線管制機として使用した。ただし、ローデシア においてはこの機体をリンクスと称してナパーム弾 などを装備してCOIN任務に充てた。
O-2Aの後継として採用されたのがOV-10 ブロンコ で、COIN、観測、前線航空管制 、空挺部隊の輸送降下 、軽輸送(実際には利用されず)まで兼ね備えた多目的のCOIN機であり、空軍・海兵隊が空中管制機として、海軍がCOIN機として用いて輸出もされた。
陸軍のOV-1モホーク も元々、COIN機としての性格を帯び、限定的にベトナム戦争にCOIN機として投入されたが、政治的な問題からもっぱら観測機およびレーダー監視機として用いられることになった。
輸送機としては米空軍のAC-130 スペクター ガンシップ が有名であるが、これほどの大型輸送機を使用するケースはほとんどなく(An-24 /An-22 輸送機の一部に主翼に爆装を可能とした輸出機があるといわれる)、ブリテン・ノーマン BN-2 アイランダー やピラタス PC-6 などの軽輸送機を武装してガンシップとする場合が多い。タイ空軍 はPC-6を武装強化したAU-23 ピースメーカー を運用している。これらは機体が大きい反面、滞空時間が長いため、海賊 などに対抗するための海洋監視機として使用される場合もある。
COIN機は低価格で練度の低いパイロットでも使用できるという利点を持つが、ゆえに携帯式地対空ミサイル (MANPADS )やレーダー誘導による精密な低空射撃のできる自走式対空砲 には弱いという欠点も存在する。また、フォークランド紛争 におけるFMA IA 58 プカラ や湾岸戦争 におけるOV-10のように、他国の(特に先進国の)正規軍が装備する主要な軍用機には無力に等しい。ある程度の軍事力を持つ先進諸国 においては、この任務を持ち合わせる攻撃ヘリコプター や無人機 を保有できることもあって、AC-130などの特殊なケースを除いてCOIN機は消滅しつつあった。
また、発展途上国ではSu-25 のような、COIN機というよりシュトゥルモヴィーク に近い機体が投入されている。一方でスリランカ のようにMiG-23 やクフィル など戦闘攻撃機 を導入する国も多い。これらは価格こそ上がるもののCOIN任務以外の汎用性が高く、安全性も高いからである。すでに旧式化しているが安価で製造国の支援が受けられる、中古のA-4 、A-7 、中国 のQ-5 などは頭数を揃えて稼働率を向上させることが容易なため、これら軽攻撃機や戦闘爆撃機もCOIN機のライバルといえる。2010年 、インドネシア はスーパーツカノ を採用している。
アメリカでは、対テロリズム作戦におけるコストパフォーマンス から再びCOIN機に注目し、空軍にCOIN機の実戦部隊を再編成する
Light Attack/Armed Reconnaissance (LAAR計画)も持ち上がった。空軍はこの計画でCOIN機を120機導入する予定であったが、現在アメリカ空軍は自軍で運用するためではなく、UAV の取得ならびに整備・運用・維持が難しい小規模な同盟国に対してCOIN機の運用ノウハウや、また、パイロットの訓練を提供するために(練習機も兼ねた)COIN機を装備する方向に方針を転換している。
民間ベースでは、企業のプライベートベンチャーとしてそれまでの機銃ポッドや無誘導爆弾、ロケット弾などに代わってヘルファイア 対戦車ミサイル を中心に装備するCOIN機が開発されており、米軍で多用されているC-12 系統の機体を武装可能にする計画もある。
南米や東南アジア などでは現在に至るまで麻薬密売組織や(しばしば麻薬を資金源とする)反政府勢力との戦闘が続いており、COIN機はこの製造・輸送拠点への攻撃に投入可能とする意見も存在している。この考え方からエアトラクター AT-802U やアークエンジェル といった農業機 を改造したCOIN機も出現している。元より農業機は頑丈かつ低高度での高い運動性を持つためCOIN機への転用と相性がよく、AT-802Uはアラブ首長国連邦 、アークエンジェルはフィリピン空軍が採用している。
なおCOIN機は暴動 を鎮圧する側ばかりが使用しているわけではなく、ゲリラやテロ 組織などが軽飛行機や民間機を武装可能に改造して投入することもある。本格的な戦果を求めるというよりは鎮圧者側に対するデモンストレーション として用いることが多い。クロアチア 独立戦争の際、クロアチア空軍 ではAn-2軽輸送/農業機の武装バージョンが造られたといわれており、小規模な爆撃任務や原始的な電子偵察任務に投入された。また、スリランカのLTTE も壊滅直前にチェコ 製の軽飛行機を武装して「空襲」作戦を行なっている。純軍事 的なダメージは皆無に等しかったものの、市民を守るための防空網の構築がされていなかった政府軍にショックを与えたとされている。ビアフラ戦争 においても、マルメ MFI-9 にロケット弾 ポッドを装備したミニ・コイン (Mini-COIN)を、ナイジェリア からの独立を求めるビアフラ共和国 に組したカール・グスタフ・フォン・ローゼン が調達し、ビアフラ空軍の主力機として運用した。ただし近年は、暴動を鎮圧する側も暴動(反体制)側も、無人航空機 を同任務に多用するようになってきている。
代表的なCOIN機
当初からCOIN機として設計
COIN機として位置づけられているが、STOL 性や整備性に優れ、空軍基地を破壊・制圧した侵攻軍に対するゲリラ戦機 としても使用可能なように設計されていた。
練習機を基に設計
連絡・観測機を基に設計
輸送機を基に設計
アイランダーの軍用武装型。翼下にハードポイント を有している。
農業機を基に設計
T-Bird
関連項目