この項目では、航空機について説明しています。「ユソーキ」と表記されることがある航空機部品を製造している企業については「輸送機工業 」をご覧ください。
大戦 世代の代表的輸送機であるC-47 と、戦後世代の代表的輸送機であるC-130J
輸送機 (ゆそうき)は、人や貨物の輸送 を目的とする航空機 。民間機 の場合は、主として旅客 の輸送を目的とする旅客機 と、貨物 の輸送を目的とする貨物機 に大別される[1] 。
本項では軍用機 としての輸送機について述べる。
任務の分類
空軍による空輸任務は、大きく戦略空輸と戦術空輸に分けられる[2] 。戦略空輸 とは、大量の物資をある地域から別の活動地域に運ぶ任務である[2] 。後方の補給基地(通常は本国)から、前線に設けられた集積基地に運び込むもので、通常は大量の物資を長距離輸送することになる[2] 。一方、戦術空輸 は、集積施設に運ばれた物資をさらに前線の各活動地域に輸送して、細分化された末端の組織に兵員や資材、物資を分配するものである[2] 。
民間の物流 におけるハブ・アンド・スポーク ・モデルでいえば、戦略空輸がハブ空港 間の運航、戦術空輸がハブ空港からのスポーク路線の運航にあたる。ただし、民間の航空輸送の場合はハブ路線とスポーク路線では運ぶものの大きさや量も変わってくるのに対し、軍の輸送では、輸送距離や輸送総重量と、輸送品単品の大きさや重量には相関関係がないという相違点がある。すなわち、大きな部隊への輸送と小さな部隊への輸送を比べると、輸送量という点では大きな差があるが、大部隊では戦車 を使っているものが小部隊であればオートバイ で足りる、というようなことにはならない。このため、戦術輸送機であっても、ある程度の搭載能力が求められる。
なお、固定翼機 が着陸できないような場所への補給では、輸送機からの空中投下 や、状況によっては大型の輸送ヘリコプター を使っての端末空輸 も実施される[2] [注 1] 。ヘリコプターは、固定翼機と比べて航続距離 が短く、ペイロード も少なく、車両輸送に近い特性を有するが、どこででも離着陸できるというメリットがある。一方、ヘリコプターは運航コストが高いというデメリットがあり、アメリカ陸軍 では「他の方法では物理的制約によって限界がある場合に利用する」と述べている。
設計の特徴
基本構造
C-47B。駐機状態では機首側が上がり、胴体は傾いている。
C-54D。駐機状態でも胴体は水平になっているが、床面の位置は高い。
C-123K。胴体は従来より地面に近い位置になっている。
第一次世界大戦 では航空機が大規模に実戦投入されたが、この時点では航続距離も輸送能力も極めて限定的であり、貨物の輸送は依然として陸上車両 が担っていた[7] 。戦間期 には、政府関係者や優先度が高い貨物について航空輸送が行われるようになったものの、機材としては、当初は改修した爆撃機 を使用していた[7] 。その後、民間航空が盛んになって旅客機 が発達すると、これを転用した軍用輸送機が広く用いられるようになっていき、第二次世界大戦 においてはJu 52 やカーチスC-46 、ダグラスC-47 などが主力輸送機として活躍した[7] 。しかしこれらの機体はいずれも低翼 ・尾輪式で、駐機状態では貨物室の床が傾いてしまい、貨物の積み降ろしに不便であった[7] 。
ダグラス 社がC-47の後継機として投入したC-54 では、三車輪式が採用されたことで地上姿勢が水平になったものの、今度は床面の位置が高くなり、やはり積み降ろしには不便であった。また戦後に同社が実用化したC-74 ・C-124 でも、大型化に伴って輸送量は増大したものの、床の高さと積み下ろしの問題は未解決のまま残された。フェアチャイルド 社のC-82 ・C-119 では機体後半を双胴機 とすることで床面高を低くしているが、主力と言えるほどの勢力にはならなかった。一方、同社が軍用グライダー を発展させて開発し、1949年10月に初飛行させたC-123 では、主翼を高翼 配置にして胴体の地上高を下げ、貨物室の床面を低くするという構成が採用された。ロッキード ではこの手法を大型輸送機に導入してC-130 を開発しており、同機の成功によって、以後の各国の輸送機で広く採用されていくことになった。
なお、特に戦術輸送機では未整備の飛行場での運用も想定されるため、非舗装滑走路 での運用能力や短距離離着陸(STOL) 能力が求められる[2] 。ただし航空工学の発達により、戦略輸送機であっても非舗装で比較的短い滑走路を使えるようになる一方、戦術輸送機であってもかなりの航続距離やペイロード、巡航速度 を備えるようになったことから、戦術輸送機と戦略輸送機の区別は以前ほど明瞭なものではなくなってきており、戦略輸送機を一気に前線飛行場まで投入するような運用もなされるようになっている。
輸送能力
Ju 52やカーチスC-46、ダグラスC-47などでは貨客搭載口が胴体側面に設けられていたため、車両や大型長形貨物の搭載・空中投下ができないという問題があった[7] 。大戦後まもなく大型パラシュート とプラットフォームによる重物料の空中投下方法が開発され、アメリカ空軍においては、1948年 のC-119の実用化とともに重物料投下が可能となった。
C-130では、主脚を胴体のバルジ(膨らみ)に収容することで貨物室内の突起物を減らし、また最後尾にカーゴランプ を設けることで物資の積み降ろしを容易にするという手法が用いられている。車両はランプを通じて自走して搭載・卸下可能である。C-5 やAn-124 ではコックピット を上方に配置し、機首にも開閉式のバイザーとランプを設けて、貨物室を機首まで全通させることで更に作業を効率化しているが、このような配置は大型機でなければ採用困難である。
ばら積み貨物はそのまま搭載することもできるが、特にC-130からは、軍用標準規格の463Lマスターパレット を介して積載すれば、機内に設置したレールとローラーコンベア を用いて効率的に搭載・卸下作業を進められるようになった。民間機の場合はコンテナ(ULD) の利用が広まっているが、胴体の下側のみを貨物室とすることを前提とした設計のコンテナが主流であるため、胴体全体を貨物室とすることが多い軍用輸送機で用いるには非効率的であり、パレットが主流となっている。なお軍用輸送機では多様な貨物を扱うことから、床部分をリバーシブルにして、車両などを搭載する場合にはローラーがある面が表に出ないようにする場合もある[12] 。
なお、軍用輸送機は民間機よりも機体構造が頑丈な傾向があるが、その分だけ余分な重さをいつも運んでいることになり、純粋な輸送効率の点では劣ることになる。このため、設備の整った空港を用いることができるなら、人員やコンテナ・パレット化された貨物の戦略空輸については、民間の旅客機や貨物機をチャーター したり徴用 したりして使用する場合もある。民間機が果たす役割比率が大きければ、それだけ、軍用輸送機をそれでしかできない任務に配分することができる。
空中給油機 も、空中給油 任務とともに輸送任務も兼用することがある。例えば航空自衛隊 ではKC-767 を「空中給油・輸送機」と呼称しており、このように民間機の設計を流用している機体は軍用機とはいえ純粋な軍用輸送機よりも快適な状態で人員を輸送することができる一方[13] 、貨物を搭載する場合には民間機と同様にパレット化されたものに限定される。
機種一覧
ターボジェット / ターボファン機
ターボプロップ機
レシプロ機
回転翼機
アメリカ合衆国
イギリス / アメリカ合衆国
イギリス / イタリア
ソビエト連邦 / ロシア
フランス
脚注
注釈
^ 航空自衛隊では、戦術輸送機によって航空基地間を結ぶものを幹線空輸、航空基地と各地に点在する作戦部隊を結ぶものを端末空輸と位置づけている。
出典
参考文献
関連項目