アウター・ヘブリディーズ (英語 : Outer Hebrides 、スコットランド・ゲール語 : Innse Gall )は、スコットランド 北西沖の大西洋 の南北約210kmの範囲に、ルイス・ハリス島 (英語版 ) 、ノース・ウイスト島 、ベンベキュラ島 、サウス・ウイスト島 、バラ島 を始めとした大小119の島々が鎖状に連なる列島 である。
諸島は、ほぼ全体が変成岩 の一種であるルーイシアン片麻岩 (ルーイシアン複合岩体 (英語版 ) )から成り、複雑な海岸線、内陸部の多数の湖沼、ムーア 、泥炭地 、西岸地域の白砂の砂浜、マッハ(Machair 、肥沃な低地草原)といったものが地形の特徴となっている。暖流 のメキシコ湾流 の影響を受け、高緯度 の割には温暖で、年間を通して南ないし南西方向より強い風が吹く。
周辺の離島を含め、海鳥 、渉禽類 、猛禽類 の繁殖地、渡り鳥 の越冬地や中継地となっており、鳥類 の確認種は400種を超える(繁殖種は100種以上)。天然林 は淡水湖上の島や、断崖の岩棚・窪地に若干みられるのみである。周辺海域の離島であるセント・キルダ諸島 が世界遺産 に指定されているほか、域内各所が自然保護区域に指定されている。
発見された集落跡より紀元前7000年頃(中石器時代 )には人類が居住していた様であり、紀元前3000年頃-紀元前2000年頃にはストーンサークル のカラニッシュ巨石群 (英語版 ) も造られた。6世紀頃にはケルト系 のピクト人 が居住していたようであるが、790年代よりヴァイキング (ノース人 )がスコットランド西岸地方を襲うようになり次第に定着、1098年から1266年まではノルウェー王国 の領土であった。
地方自治体「西部諸島カウンシル (英語版 ) 」が管轄し、中心都市はストーノーウェイ 。2011年現在の人口は27,684人。住民の約半数がスコットランド・ゲール語を話し、ゲール語の歌などのゲール文化が残る。列島北部はプロテスタント 、南部はカトリック の信者が多い。主力産業は、クロフティング (英語版 ) (小規模兼業小作営農)、漁業 、織物業 、観光業 。
別名はウエスタン・アイルズ (西部諸島 、英語: Western Isles、スコットランド・ゲール語: Na h-Eileanan Siar、Na h-Eileanan an Iar)など。
地理
緑:スコットランド 本島 赤:インナー・ヘブリディーズ諸島 橙:アウター・ヘブリディーズ諸島
スコットランド 本島北西海岸およびインナー・ヘブリディーズ諸島 から、ミンチ海峡 、リトル・ミンチ海峡、ヘブリディーズ海 を挟んだ沖合(スコットランド本島から約65km)の大西洋 に位置し、南北約210kmの範囲に鎖状に連なるルイス・ハリス島 (英語版 ) (ルイス島 及びハリス島 (英語版 ) )[ 注 1] 、ノース・ウイスト島 、ベンベキュラ島 、サウス・ウイスト島 、バラ島 を始めとした大小119の島々で構成されている[ 3] [ 4] 。諸島全体の面積は3,059km2 [ 5] 。ルイス・ハリス島は2,178.20km2 の面積を持ち、スコットランドで最大、ブリテン諸島 全体ではグレートブリテン島 、アイルランド島 に次ぐ3番目に大きい島である。
2011年の国勢調査によると、有人島が14有り、合計27,684人が居住する(本節末尾「有人島一覧」参照)[ 8] 。無人島に関しては、バラ諸島 (英語版 ) [ 注 2] 、フラナン諸島 [ 注 3] 、モナック諸島(Monach Islands )[ 注 4] 、シャイアント諸島 (英語版 ) [ 注 5] 、ルイス島西部のロッホ・ローグ (英語版 ) (ローグ湾)の島々を始めとして、面積0.4km2 以上の島が50以上ある。また、大西洋上の離島であるセント・キルダ諸島 [ 注 6] 、ローナ島 (英語版 ) [ 注 7] 、スーラ・スゲア島 (英語版 ) [ 注 8] 、ロッコール島 [ 注 9] も、アウター・ヘブリデーズ全体を管轄する地方自治体「西部諸島カウンシル(Comhairle nan Eilean Siar )」の管轄となっている[ 19] 。
アウター・ヘブリディーズの島々は、氷食 により複雑な海岸線をしており[ 注 10] 、ルイス島ではロッホ・ローグ、ロッホ・シーホース (英語版 ) といった細長く湾入した入江(ロッホ )が見られる[ 21] [ 22] 。また、ルイス島のランガバット湖 (英語版 ) [ 注 11] 、サイナブホール湖(Loch Suaineabhal)[ 注 12] 、ノース・ウイスト島のSgadabhagh湖(英語版 ) [ 注 13] 、サウス・ウイスト島のビー湖(Loch Bee )[ 注 14] [ 27] を始めとした大小の湖沼(こちらもロッホと呼ばれる)が7,500以上あり、スコットランドの湖沼全体(31,460以上)の約24%を占める[ 28] 。ノース・ウイスト島では、散在する大小湖沼の総面積は、陸地面積に匹敵するほどの広さにもなる[ 29] 。
海岸沿いには各所に白砂の砂浜が点在する[ 30] [ 注 15] 。西海岸一帯には、砕けた貝殻を多く含んだ砂が陸地に吹き上げられた砂地上の肥沃な低地草原「マッハ(Machair )」が広がり、牧草地や耕して畑にも使われている[ 35] [ 36] 。特にウイスト諸島 (英語版 ) [ 注 16] の西海岸で顕著で[ 35] 、その中でも砂浜や砂丘、マッハ(Machair)の草原・麦畑・休耕畑、湿地や湖沼が入り混じるサウス・ウイスト島西海岸は典型例とされる[ 38] 。
ルイス島[ 39] 、ノース・ウイスト島東部[ 40] 、ベンベキュラ島東部[ 41] を始め、内陸部の多く(一部は海岸付近まで)では「ムーア (酸性 土壌の湿原 )」が見られ[ 42] 、泥炭 が堆積する泥炭地 となっている[ 43] 。ムーアは羊や牛の放牧に使われるほか、島民の生活用燃料として泥炭の切り出しも行われている[ 43] 。
ルイス島南部、ハリス島、サウス・ウイスト島東部は、岩肌がむき出しがちの山岳地帯となっており[ 42] 、ルイス島のミーリスバル山(Mealaisbhal 。574m)[ 44] 、ハリス島のクリシャム山 (英語版 ) (799m、アウター・ヘブリディーズの最高峰)[ 45] 、サウス・ウイスト島のベン・モール山 (英語版 ) (620m)[ 46] といった山がある。
バラ島は、周辺部に砂浜及びマッハ(Machair)が広がり、内陸部は岩がちの起伏の激しい地形となっている。
スコットランドにおいて卓越した景観をもつ地域で不適切な開発からの保護を目的とする「国立景勝地域 (英語版 ) 」に[ 49] 、アウター・ヘブリディーズからは「ルイス島南部、ハリス島、ノース・ウイスト島地区 (英語版 ) 」、「サウス・ウイスト島のマッハ(Machair)」、「セント・キルダ諸島」が指定されている[ 50] 。
名称
アウター・ヘブリディーズ (英語 : Outer Hebrides。スコットランド・ゲール語 : Innse Gall [ˈĩːʃə ˈkaulˠ̪] ( 音声ファイル ) [ 注 17] )、または、ウエスタン・アイルズ (西部諸島。英語:Western Isles。スコットランド・ゲール語: Na h-Eileanan Siar [nə ˈhelanən ˈʃiəɾ] ( 音声ファイル ) [ 注 18] 、Na h-Eileanan an Iar [nə ˈhelanən ə ˈɲiəɾ] ( 音声ファイル ) [ 注 19] )が呼称、表記に使用されるほか、ロング・アイランド (英語: Long Island。スコットランド・ゲール語: An T-Eilean Fada [əɲ tʰʲelan fat̪ə] ( 音声ファイル ) )、アウター・アイルズ (英語: Outer Isles。スコットランド・ゲール語: Na h-Eileanan a-Muigh)が使われる場合もある[ 67] [ 70] 。
ヘブリディーズ諸島 についての現存する最古の文献資料 はガイウス・プリニウス・セクンドゥス (大プリニウス)著『博物誌 』(西暦77年)で[ 注 20] 、「Hebudes」として30島、これとは別に「Dumna」があると記されており、(Watson 1926 )によれば「Dumnaはまず間違いなくアウター・ヘブリディーズのこと」とされる[ 71] 。また、約80年後の西暦140-150年頃にクラウディオス・プトレマイオス (トレミー)は、グナエウス・ユリウス・アグリコラ 率いるローマ海軍 の初期のカレドニア 遠征に関して記述する際に[ 注 21] 、「Ebudes」(5島のみの言及でおそらくインナー・ヘブリディーズ を指している)と「Dumna」(アウター・ヘブリディーズとされる)を明確に区別している[ 71] 。
「Dumna」(ラテン語 )なる語は、初期ケルト語 の「dumnos」と同根語 で「遠洋の島」を意味する。なお、(Breeze 2002 )は、「Dumna」との語がアウター・ヘブリディーズ最大の島であるルイス・ハリス島 (英語版 ) を指し示している可能性を述べる一方で、アウター・ヘブリディーズ全体の別称「ロング・アイランド」を意味している可能性も述べている[ 71] 。
トレミーが用いた「Ebudes」については、(Watson 1926 )によれば、意味はよくわかっておらず、「たぶんケルト人 流入以前の言葉を語源とするのであろう」としている。(Murray 1966 )では、「Ebudes」はノルド祖語 の「Havbredey」(海の果てある島々)を語源としている、としながらも、この説は確たる根拠を持っていない、ともしている。また「Ebudes」は「epos」(馬)を語源とするピクト人の部族名「Epidii」に由来するとの説もある[ 67] 。
諸島の成り立ち
地殻の形成
ヘブリディアン・テレーン (英語版 ) の地質図
グレート・バーネラ島 (英語版 ) 西岸に露頭するルーイシアン片麻岩 (ルーイシアン複合岩体 (英語版 ) )
アウターヘブリデーズの島々は、そのほぼ全体がルーイシアン片麻岩 (ルーイシアン複合岩体 (英語版 ) [ 75] )から成る。ルーイシアン片麻岩は、約30億年前に結晶化した火成岩 (花崗岩 が主成分で斑糲岩 も含まれる)および少量の堆積岩 (石灰岩 や泥岩 など)が地殻 の深部の高温環境下で変成 したもので、石英 や長石 を主成分とする淡い灰色もしくはピンクがかった層、角閃石 を主成分とする濃緑もしくは黒色をした層が厚さ数cm間隔で縞模様をなしており、あわせて、堆積岩由来の結晶片岩 (黒雲母 や柘榴石 を含む)や大理石 も一部で生じた。
約20億年前には、このルーイシアン片麻岩にマグマ が貫入し、斑糲岩様の組成をもった岩脈 (スクーリー岩脈 (ドイツ語版 ) )が形成された。ハリス島 (英語版 ) 南部やサウス・ウイスト島 東部の山岳地帯の斑糲岩や、 同島のロイニーブホール山 (英語版 ) やリンガラベイ (英語版 ) 周辺に露頭する斜長岩 は、この時期より若干時代を下ったものとされる。約17億年前には、これらの岩石が再び埋没し、地下深くで加熱、変成されることとなった(ラックスフォード造山運動 (英語版 ) )。この時期には、さらに多くのマグマが貫入し、ルイス島 西部やハリス島南部でピンク色で堅個な花崗岩の岩脈や岩床 を形成。ルイス島ウィグ (英語版 ) の海食崖 は、この堅い花崗岩が侵食されずに残ったものである。またこの頃より、アウター・ヘブリディーズの島々に沿って断層が形成され(アウター・ヘブリディーズ断層)、断続的に活動している。この断層深部の摩擦により発生した溶融液が、岩石の割れ目に浸透し固化、岩石間を溶結する形となった。なお、バラ島 からノース・ウイスト島 東海岸までの丘陵地帯はこの断層上に位置している。
約5億年前から約4億年前のカレドニア造山運動 の後の地殻変動で、ルーイシアン片麻岩は地殻深くから地表へと押し上げられた。約3億年前から約2億年前にかけて、広範囲に盆地となっていた現在のミンチ海峡 周辺には、周囲の高地から鉄分の多い砂 や礫 が流入、堆積し、赤褐色の堆積岩を形成した(ストーノーウェイ 周辺で見られる)。約6000万年前には、スコットランドの地殻が薄く引き伸ばされる大規模な地殻変動が発生し、マグマが上昇。アウター・ヘブリディーズ主列島では堅固なルーイシアン片麻岩に阻まれ一部が岩脈を形成したにとどまるが、シャイアント諸島 (英語版 ) は、この当時のマグネシウム に富む火成岩(玄武岩 )の岩床でほぼ形成されている。また、このマグマの上昇が約5000万年前までに終了すると地下のマグマ溜り が次第に冷え花崗岩や斑糲岩を形成、セント・キルダ諸島 はこの花崗岩や斑糲岩より、ロッコール島 は花崗岩より形成されている。
氷期の影響
約700万年前頃よりグリーンランド氷床 (英語版 ) の形成が始まり、北ヨーロッパ では寒冷化が始まったとされ、また、中緯度の大陸でも約260万年前には大規模氷床 の形成が始まったとされるが、アウター・ヘブリディーズ周辺にはこの頃の氷河 の痕跡は残っていない。一方で、海底の氷河堆積物の調査より、約44万年前にはスコットランド は大規模氷床に覆われており、約10万年間隔で氷期 と間氷期 を繰り返したとされる。アウター・ヘブリディーズにおいては、少なくとも3回は氷に覆われていた時期があり(最終のものは約2万2000年前頃が最盛期)、ルイス島 南部およびハリス島 (英語版 ) の山岳地帯の氷帽 から四方に氷河が流れていたとされる。ハリス島クリシャム山 (英語版 ) 周辺では海抜 650m、サウス・ウイスト島 では海抜470mを境に[ 84] 、その上部は凍結破砕作用 により角ばった岩石の山頂部分、その下部は氷食 による滑らかな斜面となっており、ここがトリムライン (氷床または氷河の最高地点)であった様である。氷河は、風化して脆くなった岩石を削り取り、深くて幅広いU字谷 が形成され、陸地深く細長く湾入した入江(所謂フィヨルド 。スコットランドではロッホ と呼ばれる)の元となった。また岩肌が氷で削られた内陸部では、窪地が湖沼や泥炭地 となった「cnok and lochan(丘と湖沼)」地形が形成され、ハリス島南部、ウイスト諸島 (英語版 ) 東部で見られる。ルイス島北部には、粘土質の氷礫土 (英語版 ) (氷食による堆積物)が厚く堆積し、水はけの悪い泥炭地となっている。
後氷期の変化
約1万1500年前頃からは、大陸の氷床 融解が進み、海水面が急速に上昇するようになった[ 注 22] 。島々の西側では、沖合まで広がっていた陸地が海中に没し、そこに堆積していた氷河堆積物は、生物由来の残存物(貝殻の破片など)とともに、今日見られる白砂の砂浜の元となった。一方、氷河 に削られた複雑な地形の東岸地域などは、海面の上昇に伴い低地部分が水没し、複雑に湾入した入江(ロッホ )や多島海 が形成された。また、メキシコ湾流 (暖流 )の流入も相まって、それまでの降水量の少ない極地性の気候は、比較的温暖で湿潤な気候へと移行した。植物は、岩がちの薄い土壌への草本植物 の進出で始まり、ヘザー (エリカ属 やギョリュウモドキ属 といったツツジ科 の低木類)、ジェニパー(ビャクシン属 の針葉樹 類)が定着し、次第にカバノキ類 (落葉広葉樹 )の林も見られるようになった。約8000年前頃になると、カバノキ類の林は、ハシバミ類 (落葉広葉樹)、オーク (ブナ科 コナラ類)との混交林 へと推移し、この頃がアウター・ヘブリディーズでの森林の最盛期であったとされる。その後は、開墾 のための森林伐採に加え、約6000年前頃には気候の冷涼化も始まり、森林は次第に減少、代わりに泥炭地 が拡大し、約3000年前頃には島々から樹々はほぼ消滅した様である。西海岸に多く見られる、貝殻の破片などを多く含み石灰質に富んだ白砂は、海からの強風で海岸沿いに砂丘を形成、またさらに内陸部に運ばれ、水はけの良い石灰質に富んだ草原の適地「マッハ(Machair )」を形成した。マッハは数千年にわたり牧草地や耕作地として適度に利用されており、この適度な人間の介入が自然豊かで多様性に富むマッハの維持、発展に不可欠であったとされている。
気候
風速83mph(37m/s)を記録した2008年10月25日のルイス島 ポート・オブ・ネス (英語版 )
高緯度 の割には温暖で、冷温帯 気候に属する[ 90] 。平均最高気温は冬で7℃程度、夏で16℃程度と、季節間の寒暖差が小さい海洋性気候 (特に顕著な「超海洋性(hyperoceanic )」)の特徴を示す[ 91] 。この温暖で安定した気候は、主にメキシコ湾流 (暖流 )の流入によりもたらされている[ 90] 。高緯度の為、夏冬で昼夜の時間差が大きく、真夏には2時間程度しか暗くならない[ 92] 。アウター・ヘブリディーズは北大西洋 ストームトラック (英語版 ) (低気圧の通り道[ 93] )に沿う位置にあり、毎年、冬を中心に多くの嵐が訪れる[ 94] 。降水量は年間で平均1,100-1,200mm程度で[ 95] [ 96] [ 97] 、冬に多く夏は少ない[ 90] 。1年を通じ、南ないし南西方向より風が吹き、平均風速は6-8m/s程度、とりわけ冬の間は強風が吹く[ 92] 。ルイス島 のバット・オブ・ルイス岬 (英語版 ) では1990年1月に161mph(72m/s)の突風を記録[ 98] 、諸島最南端のバーナレイ島(南) (英語版 ) のバラ岬では嵐になると190mにもなる崖上の草地に小魚が吹き上げられると伝わる。作家W・H・マーリ (英語版 ) によると「島の人に天気がどうなりそうか尋ねても、スコットランド本島の人の様に、雨は降らない、雨になるだろう、晴れるだろう、とは答えず、ビューフォート風力階級 の数字(風の強さ)で答える」とされる。波の高さは、嵐の際には12mにも及ぶが[ 94] 、2013年2月の嵐では最大23m以上に達する波を記録した[ 101] 。
(参考) ストーノーウェイ空港(海抜15m)気象状況(1991年-2020年平均)[ 95]
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
年間
最高気温(℃)
0 7.5
0 7.5
0 8.5
10.4
12.6
14.5
16.3
16.4
14.7
12.0
0 9.5
0 7.8
11.5
最低気温(℃)
0 2.7
0 2.4
0 3.2
0 4.6
0 6.4
0 9.1
10.8
11.0
0 9.5
0 7.0
0 4.5
0 2.8
0 6.2
氷点下日数(日)
0 4.7
0 4.8
0 3.9
0 1.4
0 0.4
0 0.0
0 0.0
0 0.0
0 0.0
0 0.2
0 1.4
0 5.5
22.2
日照時間(時)
00 32.8
00 61.5
0 107.7
0 155.9
0 205.1
0 162.3
0 138.4
0 133.0
0 109.8
00 78.3
00 45.0
00 26.7
1,256.3
降水量(mm)
0 145.2
0 111.9
0 105.3
00 74.4
00 69.0
00 64.6
00 74.5
00 87.6
0 103.6
0 132.6
0 127.6
0 139.3
1,235.5
降水日数(日)
0 20.6
0 18.3
0 17.9
0 15.5
0 14.0
0 13.1
0 14.0
0 15.0
0 16.2
0 20.3
0 20.8
0 20.7
206.4
平均風速(m/s)
0 7.4
0 7.3
0 6.8
0 5.9
0 5.5
0 5.4
0 5.0
0 5.0
0 5.6
0 6.3
0 6.5
0 6.7
0 6.1
動植物
動物
鳥類
セント・キルダ諸島 ボーレー島 (英語版 ) のシロカツオドリ
ハマシギ
セントキルダミソサザイ (英語版 )
2020年12月までにイギリス で確認された鳥類618種のうち、アウター・ヘブリディーズで確認されている種は409種に及ぶ[ 102] 。うち100種を超える種が島々で繁殖している[ 103] 。
海鳥 に関しては、捕食者のいない沖合の無人島を中心に大規模な集団営巣地があり、ヨーロッパ 有数の繁殖地とされる[ 102] 。西方沖合のセント・キルダ諸島 では、シロカツオドリ は世界最大規模の6万ペア以上、フルマカモメ は6万4000ペア以上、コシジロウミツバメ はイギリスにおける生息数全体の94%に当たる4万5000ペアが営巣、繁殖している[ 102] 。沖合のローナ島 (英語版 ) 、スーラ・スゲア島 (英語版 ) 、シャイアント諸島 (英語版 ) 、フラナン諸島 、モナック諸島(Monach Islands )、主列島南方バラ諸島 (英語版 ) のバーナレイ島(南) (英語版 ) およびミングレイ島 (英語版 ) などでも海鳥が営巣、繁殖しており、ニシツノメドリ 、ウミガラス 、オオハシウミガラス の大規模な集団営巣が見られる[ 102] [ 注 23] 。
シギ ・チドリ 類に関しては、ウイスト諸島 (英語版 ) のマッハ(Machair )やルイス島 の泥炭地 を中心に、イギリスでは希少なアカエリヒレアシシギ およびチュウシャクシギ [ 注 24] 、イギリス全体の繁殖数の25%を占めるハマシギ およびハジロコチドリ 、同10%のアカアシシギ など[ 注 25] 、12種が営巣、繁殖しており、イギリスにおける重要な繁殖地となっている[ 102]
猛禽類 に関しては、昼行性のワシタカ類 ・ハヤブサ類 8種[ 102] 、夜行性のフクロウ類 2種が営巣、繁殖しており[ 107] 、生息数はイギリス有数とされる[ 102] 。コチョウゲンボウ はルイス島を中心に、イヌワシ はハリス島 (英語版 ) 北部を中心に、それぞれ90ペア程度が営巣し、ともに西欧有数の繁殖地とされる[ 107] 。スコットランド では1920年代に絶滅したオジロワシ は、1975年より再移入が図られ、1983年にはルイス島で繁殖確認、以後徐々に生息数を増やし、2014年には25ペアが営巣、繁殖するまでに至った[ 108] 。そのほか、ワシタカ類・ハヤブサ類ではハイイロチュウヒ 40ペア程度、ハヤブサ 20ペア程度、チョウゲンボウ 50ペア程度、ハイタカ 35ペア程度、ヨーロッパノスリ 190ペア程度が[ 102] 、フクロウ類ではコミミズク 、トラフズク が営巣、繁殖している[ 107] 。
ほか、留鳥 、島々を繁殖地や越冬地、中継地とする渡り鳥 を含め、多数の種がみられる[ 109] [ 注 26] 。
固有種 としては、泥炭地・ムーア ・高地地域に生息するTroglodytes troglodytes hebridensis (ミソサザイ 亜種)、Prunella modularis hebridium (ヨーロッパカヤクグリ 亜種)、Turdus philomelos hebridensis (ウタツグミ 亜種)、セント・キルダ諸島に見られるセントキルダミソサザイ (英語版 ) (ミソサザイ亜種)がある[ 104] 。
なお、IUCNレッドリスト (Ver3.1)にて、NT 近危急種 以上に指定されているものは以下の様な種がある。
哺乳類
ユーラシアカワウソ
ルイス島 のアカシカ
バーナレイ島(北) (英語版 ) のハイイロアザラシ
ユーラシアカワウソ 、アカシカ 、ナミハリネズミ 、ヨーロッパヒメトガリネズミ 、アナウサギ 、ユキウサギ 、キタハタネズミ (英語版 ) 、モリアカネズミ (英語版 ) などの[ 注 28] 陸生種が生息するほか、ハイイロアザラシ 、ゼニガタアザラシ が海浜部分や沖合の島々で繁殖し[ 103] 、また周辺海域ではネズミイルカ 、ミンククジラ 、マイルカ 、ハナゴンドウ を始めとしたクジラやイルカの仲間 が見られる。陸生種のうち、在来種 はユーラシアカワウソとアカシカのみで、他は外来種 (意図的な導入種もしくは人間の活動に伴う移入種)とされる[ 127] 。
ユーラシアカワウソはイギリスでは推定で約1万頭が生息し[ 128] 、アウター・ヘブリディーズは主要な生息地の一つとなっている[ 129] 。アウター・ヘブリディーズのユーラシアカワウソは、餌となる甲殻類 などを獲るため、ほとんどの時間を海水域で過ごし、時折、毛皮の揮発性の維持に必要な脱塩をするために淡水域に現れるといった生活を送っている[ 130] 。IUCNレッドリスト では、NT 近危急種 (IUCN Ver3.1)に指定されている[ 128] 。
アカシカは、ルイス・ハリス島 (英語版 ) の丘陵地帯を中心に推定4千頭が生息[ 131] 、ウイスト諸島 (英語版 ) にも少数が生息する[ 132] 。石器時代 の遺跡からアカシカの骨が出土することから、少なくとも4500年前にはアウター・ヘブリディーズに生息していた様である[ 133] 。出土した骨の分析によると、スコットランド 本島やその近隣のインナー・ヘブリディーズ 出土の骨とは遺伝子型 (ハプロタイプ )が異なることから、より遠くの他所からアウター・ヘブリディーズに移入された可能性があるとされる[ 133] 。
イギリスで約124千頭(世界全体の約40%)が生息するハイイロアザラシは、秋になると沿岸各地に繁殖コロニーを形成する[ 134] 。周辺海域の離島であるモナック諸島(Monach Islands )はイギリスで最大の繁殖コロニー(イギリスでの年間出産数の20%以上)、ローナ島 (英語版 ) は同3番目の大きさの繁殖コロニー(同約5%)があり、ともに保全特別地域 (英語版 ) (SAC) に指定されている[ 134] 。
1974年にナメクジ 駆除のためにサウス・ウイスト島 に7匹が導入されたナミハリネズミは、その後の繁殖により数千匹までに増え、地上営巣する鳥の卵への食害が深刻となったことから[ 注 29] 、2001年から駆除が行われている[ 135] [ 注 30] 。
爬虫類・両生類・魚類
ヒメアシナシトカゲ
爬虫類 については、陸生種はヒメアシナシトカゲ のみ[ 136] 、周辺海域ではオサガメ が確認されている。
両生類 はヨーロッパアカガエル 、ヨーロッパヒキガエル 、ヒラユビイモリ (英語版 ) が生息しており、いずれも外来種 と考えられている。
魚類 に関しては、周辺海域を含めて硬骨魚 90種、軟骨魚 (サメ ・エイ の仲間)5種が確認されている[ 139] [ 注 31] 。淡水域では広塩性 (英語版 ) [ 注 32] の種のみが見られ[ 139] 、タイセイヨウサケ 、ブラウントラウト (河川型および降海型)、ホッキョクイワナ (英語版 ) 、ニジマス 、ヨーロッパウナギ 、イトヨ 、Pungitius pungitius (トミヨの仲間 )、Chelon labrosus (ボラの仲間 )、ヨーロッパヌマガレイ (英語版 ) といったものが確認されている[ 103] 。
昆虫
Bombus jonellus (マルハナバチの仲間 )
アウター・ヘブリディーズで確認されている昆虫 は、ハエ・アブの仲間 850種、チョウ・ガの仲間 554種、甲虫類 455種、ハチ・アリの仲間 104種、トビケラの仲間 76種、カメムシ・セミの仲間 74種など約2,100種で[ 注 34] 、これはイギリス における昆虫約24,000種の約9%に相当する。
固有の亜種としてはBombus jonellus var. hebridensis (マルハナバチの仲間 )があり、またチョウ の ギンボシヒョウモン 、エゾスジグロシロチョウ は地域変異が見られる。
また、生息種のうち、Coenonympha tullia (ヒメヒカゲの仲間 (英語版 ) )[ 155] 、Bombus muscorum [ 156] およびBombus distinguendus [ 157] (マルハナバチの仲間)が、IUCN レッドリスト (Ver3.1)にてVU 危急種 に指定されている。
植物
ルイス島 に咲くヘザー
バーナレイ島(北) (英語版 ) のマッハ(Machair )に咲く花々
Dactylorhiza fuchsii spp. hebridensis (ラン科 ハクサンチドリの仲間 の亜種)
アウター・ヘブリディーズの植生は、強い海風、高い降水頻度、高緯度だが比較的温暖な気候、水捌けの悪い地盤(ルーイシアン片麻岩 )などが影響しており、大別すると、内陸部の酸性 土壌の泥炭地 や荒れ地(ムーア )、石灰 成分(アルカリ )に富む砂が陸地に吹き上げられ形成された比較的肥沃な草地(マッハ (英語版 ) )で異なる相を示す[ 92] 。ムーアでは、ギョリュウモドキ 、エリカ・キネレア (英語版 ) 、エリカ・テトラリクス (英語版 ) といったツツジ科 ギョリュウモドキ属 や同科エリカ属 の低木(ヘザー と呼ばれる)が優占種 となっており、またモウセンゴケの仲間 といった食虫植物 も多数見られる[ 158] 。マッハ(Machair)ではランの仲間 を始めとした多種多様の草花が見られ[ 159] 、場所によっては1平方メートルの範囲に40種の植物がみられる場合もあるとされる[ 35] 。天然林 は淡水湖上の島や、断崖の岩棚・窪地に見られるのみで[ 注 35] 、一方、人工林 としては、ルイス島 ルース城 (英語版 ) の敷地林[ 注 36] [ 161] のほか、コントルタマツ 、シトカトウヒ (英語版 ) 、ヨーロッパカラマツ などの植林地も一部に見られる。
アウター・ヘブリディーズ全体での生育種数は、(Sutton 2022 )によると、被子植物 950種、蘚類 (マゴケ植物門)348種、苔類 (ゼニゴケ植物門)169種、シダ植物 45種、球果植物 (針葉樹 )23種、ヒカゲノカズラ綱 9種、ツノゴケ類 (ツノゴケ植物門)2種とされる[ 注 37] 。
固有種 としては、Dactylorhiza fuchsii spp. hebridensis (ラン科ハクサンチドリの仲間 の亜種)、2012年に新種と同定されたセント・キルダ諸島 固有種のTaraxacum pankhurstianum (タンポポの仲間 )がある[ 165] [ 166] 。
また、アウター・ヘブリディーズでは以下の様な希少種が確認されている[ 163] [ 166] 。
VU 危急種 (Red List GB Post 2001)
NT 近危急種 (Red List GB Post 2001)
生物多様性保護と各種保護地区
1992年の環境と開発に関する国際連合会議 において、イギリス は生物の多様性に関する条約 に署名、1994年には生物多様性保護強化に関する行動計画を発表、1996年にはスコットランド生物多様性グループが発足し、スコットランド における生物多様性保護強化に関する取り組みを主導する様になった[ 175] 。アウター・ヘブリデーズにおいては、2001年に地域生物多様性行動計画 (英語版 ) (LBAP)運営グループが発足、2002年に現況監査および保護優占種の確認、2004年に西部諸島地域生物多様性行動計画(ウエスタン・アイルズ・LBAP)が最終的に策定され、Bombus distinguendus (マルハナバチの仲間 )、ハタホオジロ 、ウズラクイナ 、ハマシギ 、Spiranthes romanzoffiana (ネジバナの仲間 (英語版 ) )の保護、天然林 、潟湖 、穀物耕作地の保全といった活動が行われている[ 176] 。
また、周辺海域を含めて広い範囲が、国際的な枠組みを含め自然保護区域に指定されている[ 177] 。セント・キルダ諸島 は、1986年に世界遺産(自然遺産) に登録、2005年には文化遺産 としても登録されたことにより世界遺産(複合遺産) となった[ 178] 。湿地保全を図るラムサール条約 には、ルイス島 内陸部の泥炭地 地域(Lewis Peatlands )、ノース・ウイスト島 北東部のロッホ・アン・ドゥイン地域(Loch an Duin )、ノース・ウイスト島西岸地域のマッハ(Machair )および周辺諸島(North Uist Machair and Islands )、サウス・ウイスト島 西岸地域のマッハ(Machair)および湖沼群(South Uist Machair and Lochs )の4か所が登録されている[ 179] 。欧州連合 の生息地指令 (英語版 ) に基づく野生動物生息地保護のための保全特別地域 (英語版 ) には9か所[ 180] 、同鳥類保護指令 (英語版 ) に基づく保全特別地域には15か所が指定されている[ 181] 。そのほか、イギリス国内での指定に関しては、国立自然保護区 (英語版 ) が1か所(セント・キルダ諸島)[ 182] 、特別環境保全地域 (英語版 ) には52か所が指定されている[ 183] 。
歴史
先史時代
アイリーン・ドムヌイル遺跡(Eilean Dòmhnuill )
カラニッシュ巨石群 (英語版 )
ダン・カロウェイ (英語版 )
グレートブリテン島 北部一帯は、紀元前8000年頃までは氷河 に覆われ大陸とは陸続きであったが、氷期 が終わり温暖化が次第に進むと、氷が解け海水面が上昇、大陸とは分断される様になった。中石器時代 の紀元前6500年以降同4000年以前の頃には移動しながら狩猟・採集・漁を行う人々が住むようになったと推定されており、新石器時代 に入った紀元前4000年頃になると大陸から農耕民が移入し定住するようになった。紀元前2000年頃になると大陸から渡ってきたビーカー人 によってもたらされた金属加工技術によって青銅器時代 が始まった。また、紀元前500年頃までには鉄加工技術を持っていたケルト人 が流入し、青銅器に代わり鉄器が使われる様になったとされる(鉄器時代 )。紀元前400年頃からは、円塔状の石造り住居兼城砦「ブロッホ (英語版 ) 」が各地に造られるようになり、争いの多い不安定な時代だった様である[ 188] 。
アウター・ヘブリディーズにおいても、中石器時代の狩猟採集民の活動の痕跡が各所で見つかっており、なかでも炉床 、竪穴、人工遺物 とともに炭化 したヘーゼルナッツ の種皮 (殻)が出土したハリス島 (英語版 ) ノーストンの集落跡は紀元前7000年頃からのものとされている[ 189] 。
新石器時代に入った紀元前4500年頃になると農耕が始まり、森林を伐採し放牧地として定期的に野焼き を行っていた様である[ 190] 。ルイス島 アイ半島 (英語版 ) シュリシャダー(Shulishader )では紀元前3150年頃のものとされる木製柄付き石斧 がほぼ完全な形のまま出土している[ 189] 。住居跡としては、紀元前3200-2800年頃からのクラノーグ (英語版 ) (湖上人工島様の住居跡)とされるノース・ウイスト島 オラブハット湖(Loch Olabhat)のアイリーン・ドムヌイル遺跡(Eilean Dòmhnuill )[ 191] などが見つかっており、この頃には定住生活が行われていた様である[ 190] 。また、紀元前3000年頃から紀元前2000年頃にかけて漸次造られたとされるルイス島のカラニッシュ巨石群 (英語版 ) (ストーンサークル )は、高さ4.75mの巨石および石室墳を中心に、直径12mの円状および東西南北に向かって高十字状に片麻岩 の巨石が大小48個立てられており、儀式や天体観測に用いられていた様である。
青銅器時代のものとしては、サウス・ウイスト島 クレイド・ハラン (英語版 ) の集落跡が紀元前2000年頃からのものとされ[ 194] 、当時の権力者のものと思われる中央に炉床を配した石造りの大きな住居跡[ 188] 、その地下からは紀元前1600年頃および紀元前1300年頃のものとされるミイラ (湿地遺体 )2体が発掘されている[ 195] [ 196] 。
鉄器時代に入ると、アウター・ヘブリディーズでも、ルイス島のダン・カロウェイ (英語版 ) (紀元前200年頃の建造で、基部直径14.3m、高さ9.1mまでの部分が残存[ 197] )を始めとして、ブロッホ(円塔状の石造り住居兼城砦)が各地に造られた[ 188] 。
ケルト人の時代
パベイ島 (英語版 ) で見つかったピクト人のシンボル・ストーン (英語版 ) 「パベイ・ストーン」
紀元前5-6世紀頃に歴史資料 に登場するようになったケルト人 は、地名や出土品などの分析から、紀元前5世紀前半までにはグレートブリテン島 北部一帯に流入し、その文化が普及していた様である。グレートブリテン島北部一帯におけるケルト人の特徴としては、ケルト語 を話していたこと、鉄加工技術に長けていたこと、顔や体を染料で彩っていたこと、血縁関係を基にした氏族社会 を形成し各族長が率いていたこと、好戦的で騎馬術に長けていたこと、などがあげられている。グレートブリテン島南部一帯は紀元43年より同410年まで古代ローマ に支配され(ローマ属州ブリタンニア )、グレートブリテン島北部(カレドニア )に住むピクト人 などの在地ケルト人と攻防を繰り広げたが、カレドニア北部(ハイランド地方 )および島嶼部への古代ローマの直接的な影響はあまりなく、アウター・ヘブリディーズに古代ローマの軍勢が実際に上陸したとの形跡も認められていない。
3世紀頃からは、カレドニア北部及び島嶼部は、いずれもケルト系 ピクト人[ 注 40] による7つの王国に分かれて支配されていたとされる(ピクトランド)。500年頃になるとアイルランド島 北部のケルト系スコット人 (英語版 ) [ 注 41] が、カレドニア南西部及びインナー・ヘブリディーズ に移住(植民)、ダルリアダ王国 を創設した。ピクト人の王国(ピクトランド)とダルリアダ王国は時には激しく対立し抗争を繰り広げ、時には連携して外敵に対処するなどしながら、またキリスト教を介しても[ 注 42] 、次第に連携が進み、843年にダルリアダ国王ケネス1世 がピクト王も兼任し、ここに両者が連合したアルバ王国 (スコットランド王国 の母体)が成立することとなった[ 注 43] 。
アウター・ヘブリディーズにおいては、バラ諸島 (英語版 ) (主列島南端部)のパベイ島 (英語版 ) にて、6世紀のピクト人のシンボル・ストーン (英語版 ) 「パベイ・ストーン」[ 注 44] が見つかっている[ 210] 。また、(Hunter 2000 )によると、文化・言語などから、当時のアウター・ヘブリディーズの住民はそのほとんどがピクト人であったと考えられている。
ノース人による支配
11世紀末における島嶼部王国 (英語版 ) の支配範囲
ラーグスの戦い (英語版 ) (William Hole 作。一部分をトリミング)
ルイス島のチェス駒 (大英博物館 所蔵)
790年代になると、ヴァイキング (ノース人 )がスコットランド 西岸地方を襲うようになり、当初は、夏の間の海賊、略奪行為に留まっていたが、次第に攻略した場所に定着する様になった[ 212] 。9世紀半ばには、ノース人のケティス・フラットノーズ (英語版 ) がアウター・ヘブリディーズの大部分を手中にし、他のノース人指導者たちと種々の同盟を結びながら実権を握っていたが、母国ノルウェー からの統制はあまり効いていなかった様である。890年には、ノルウェー統一を果たしたハーラル1世 がオークニー諸島 、ヘブリディーズ諸島 の支配権を確立、既に支配権を確立していたシェトランド諸島 、スコットランド本島のケイスネス と併せて、ノルウェー王国 の伯爵領とした。
スコットランド国王エドガー (1097年就任)の時代になると、ヘブリディーズ諸島の住民がノルウェー王国の支配に対する反乱を起こし、ノース人や有力者を虐殺する事態となった。ノルウェー国王マグヌス3世 (英語版 ) は報復の為、大艦隊を率いて親征、ヘブリディーズ諸島の住民を皆殺しし、略奪を尽くし、住居は焼き払った。マグヌス3世付きのスカルド詩人 は、ルイス島 では「炎は空高く天まで燃え上がった」「家々から炎が噴き出した」、またウイスト諸島 (英語版 ) では「王は剣を血で赤く染めた」と記している。1098年、スコットランド国王エドガーとノルウェー国王マグヌス3世は条約を結び、ヘブリディーズ諸島は正式にノルウェー王国に譲渡されることとなった。島々の統治は、「Norðr-eyjar」(北の島々。オークニー諸島及びシェトランド諸島)、「Suðr-eyjar」(南の島々。ヘブリディーズ諸島及びマン島 )の二つの「王国」(全体としては島嶼部王国 (英語版 ) )として行われた[ 219] 。
1156年、ノルウェー王国支配下にあったノース人とゲール人の血を引く (英語版 ) サマーレッド (英語版 ) [ 注 45] が蜂起、ノルウェー王国支配下でマン島を治めるゴッドレッド(Guðrøðr Óláfsson )との対峙(バトル・オブ・エピファニー (英語版 ) )を経て[ 222] 、スカイ島 を除くインナー・ヘブリディーズ 全体は、サマーレッドが独自に支配する「事実上の独立した領域」となった[ 222] [ 219] [ 注 46] 。
13世紀前半、スコットランド国王アレグザンダー2世 [ 注 49] は、ヘブリディーズ諸島をノルウェー王国の支配から奪還することを目論み、当初はノルウェー国王ホーコン4世 に返還を要求、次に購入することを提案するも、いずれも拒絶されたため、戦争での奪還を決意し艦隊を率いるが、途上、インナー・ヘブリディーズのケイラ島 (英語版 ) で病死した(1249年)。後継のアレグザンダー3世 も奪還を目指し平和的な移譲を交渉するが決裂、武力でノルウェー王国側を襲撃するに至った。1263年、ノルウェー国王ホーコン4世は反撃の為、自ら艦隊を率い遠征するも、艦隊は猛烈な暴風雨に見舞われ、緒戦のラーグスの戦い (英語版 ) にも敗北、さらにノルウェー王国への帰国途上のオークニー諸島カークウォール で病死するに至った。1266年、アレグザンダー3世と後継ノルウェー国王マグヌス6世 との間でパース条約 (英語版 ) が締結され、マン島およびヘブリディーズ諸島はスコットランド王国 の領土であることを確認し[ 注 50] 、ノルウェー王国による支配は終焉を迎えることとなった[ 注 51] 。(関連記事「スコットランド・ノルウェー戦争 」)
ノース人が支配した時代の名残は人名や地名に残っているが、一方で当時の遺物に関しては「ルイス島のチェス駒 」[ 注 52] がよく知られているものの、全体としては非常に限られたものしか残っていない。
スコットランド王国時代
「スコットランドの氏族 」地図
マクニール氏族 (英語版 ) の拠点であったバラ島 キャッスルベイ (英語版 ) のキシムル城 (英語版 )
ノース人 が支配する時代が終わりに近づくにつれ、各島々の統治は、次第に、スコットランド・ゲール語 を話すスコットランドの氏族 の氏族長 、例えばルイス・ハリス島 (英語版 ) ではマクラウド氏族 (英語版 ) 、ウイスト諸島 (英語版 ) ではマクドナルド氏族 、バラ島 ではマクニール氏族 (英語版 ) 、が行うようになった。各氏族は激しく対立・抗争しながらも、サマーレッド (英語版 ) の子孫で代々「島々の領主(ロード・オブ・ジ・アイルズ (英語版 ) )」と名乗ったマクドナルド氏族が統率するという形態であった。1266年のパース条約 (英語版 ) によりヘブリディーズ諸島 はノルウェー王国 の支配から完全に脱しスコットランド王国 の領土であると確認されたが、その実態は「島々の領主」がヘブリディーズ諸島およびスコットランド 西岸地方の各氏族を支配するといった、いわば独自の「王朝」というものであった。
1493年になると、スコットランド国王ジェームズ4世 は「島々の領主」はスコットランド王国の統治にとって脅威であるとして[ 注 53] 、「島々の領主、ロス伯爵」ジョン(John of Islay, Earl of Ross )の地位を剥奪、財産も没収、マクドナルド氏族は「島々の領主」としての支配力を失うこととなった。一方で、ジェームズ4世及びその後継者たちは、ヘブリディーズ諸島の各氏族を制圧する軍事力を保持しているにも関わらず、各氏族の紛争を抑える統治体制を構築することはせず、紛争が発生するたびに、場当たり的に、遠征、討伐するに留まった。1506年には第3代ハントリー侯爵 アレグザンダー・ゴードン (英語版 ) はストーノーウェイ城を包囲、占領し、騒乱を鎮圧した。1539年、インナー・ヘブリディーズ のスカイ島 スリートを本拠地とするマクドナルド一族(Clan Macdonald of Sleat )の族長ドナルド・ゴームが島の領主権を求めて蜂起、この反乱は鎮圧され、ゴームも処刑された。この反乱を機として、1540年、ジェームズ5世 は、スコットランド北西部及び島嶼部に王室の権威、支配を徹底するために、同地域の氏族長たちを強制的に随行させる形で、オークニー諸島 、スコットランド最北西のケープラス (英語版 ) 、ヘブリディーズ諸島、グラスゴー 近郊のダンバートン まで、自らロイヤル・ツアー(王室公式訪問)を率いた。その際、人質を連れ帰るなどして、各氏族長に恭順を誓わせ、また「島々の領主」の称号を王権のものとする法制化も行った。その後は平和な期間が続いたが、またすぐに各氏族は反目し合うようになった。
1598年、スコットランド国王ジェームス6世 は、ファイフ 出身のジェントリ 階級の入植開拓者(Gentleman Adventurers of Fife )に対し「最も未開な」ルイス島 を文明化させる名目で入植することを許可した。入植は成功裏に始まったが、ルイス島西方のロッホ・ローグ (英語版 ) ベアラサイ島(Bearasaigh )を拠点としていたマクラウド一族(Clan MacLeod of Lewis )のニールとマードックが指揮する軍勢に追い出されることとなった。1605年の再度の試みも失敗、1607年の三度目の試みでようやく入植が成功した。他方、1608年には、スコットランド国王ジェームス6世(イングランド国王ジェームス1世)は、アンドルー・ノックス (英語版 ) 主教 を通じて、ヘブリディーズ諸島の各氏族長全員を捕縛、投獄し、翌1609年、各氏族長に対し「氏族長子息のローランド での教育の必須化」「島民の武器携行禁止」「詩人によるゲール社会の伝統儀式廃止」などを定めたアイオナの法令 (英語版 ) への署名を求め、加えて1610年には「氏族長の毎年の枢密院 (英語版 ) への出頭および、氏族構成員の順法状況の報告」を命令した。この頃、キンテイル (英語版 ) のマッケンジー家(のちのシーフォース伯爵 (英語版 ) 家)がルイス島を保有する様になり、文明化の促進、とりわけ漁業の近代化に取り組んだ。歴史家 のW・C・マッケンジー[ 250] はこの取り組みに関し、
17世紀末のルイス島の絵には、豊かではないが安んじて生業に勤しむ島民の姿が有る。シーフォース伯爵家は、この島にきちんとした統治体制を整えたほか、無知、無作法の泥沼にどっぷりと浸かっている島民を救うために多くの施策を実行した。しかし、このような活動も、島の地域社会に対する経済面での恩恵はほぼ無かった様である。
—W. C. Mackenzie、Francis Thompson『Harris and Lewis, Outer Hebrides』41頁
と言及している。このような一連の取り組みは、ヘブリディーズ諸島に平和と秩序ある社会をもたらし、やがてストーノーウェイ の街はバロニ自治都市 (英語版 ) となった。
17世紀中ごろの三王国戦争(清教徒革命 )においては、ルイス島のシーフォース伯爵家は王党派 を支持、1645年のオールダーンの戦い(Battle of Auldearn )では王党派側として戦った。このことから、イングランド王国 議会派 のオリバー・クロムウェル の部隊のルイス島への進駐をまねき、ストーノーウェイの古城は破壊されるに至った。
グレートブリテン王国成立以降
1841年に島民全員が追い出され牧羊場となったフアーグモール島(Fuaigh Mòr )
胴枯れ病にかかったジャガイモ
ルイス島 ストーノーウェイ のルース城 (英語版 ) (19世紀中ごろ築)
1715年、スコットランド国王ジェームス7世(イングランド国王ジェームス2世) の次男老僭王ジェームズ の王位就任を求め、マー伯ジョン・アースキン が主導するジャコバイト 派が蜂起した(1715年ジャコバイト蜂起 )[ 注 54] 。ジャコバイト軍は当初はハイランド の勢力が中心でアウター・ヘブリディーズの勢力も数多く参加したが、最終的に蜂起は失敗に終わった。1745年の若僭王チャールズ (老僭王ジェームズの長男)の蜂起(1745年ジャコバイト蜂起 )の際には、アウター・ヘブリディーズを含めたハイランドの勢力の反応は芳しくなかった。若僭王チャールズが亡命先フランス からアウター・ヘブリディーズのエリスケイ島 (英語版 ) に到着、上陸した際には、ボイスデールのマクドナルド一族は、一旦は支援を拒否し、フランスへの帰国を進言したとも伝わる[ 259] 。それでもマクドナルド一族はジャコバイト側で参戦したが[ 259] 、カロデンの戦い の敗戦により蜂起は失敗、若僭王チャールズはフランスへ逃げ帰ることとなった。この逃避行ではアウター・ヘブリディーズの島々を転々とし、その際にはマクドナルド一族ほか島々の住民の支援があった。特に、追手が迫る中、若僭王チャールズを召使に変装させることで脱出を助けたフローラ・マクドナルド がよく知られている。
1745年のジャコバイト蜂起が失敗に終わると、ハイランドの氏族社会 が崩壊[ 注 55] 、続いて、効率的な土地利用の為に余剰となった領民を追い出すといったハイランド・クリアランス (英語版 ) が行われるようになり、1815年頃より本格化、ジャガイモ飢饉 (英語版 ) が発生した1850年頃がピークとなった[ 注 56] 。
ヘブリディーズ諸島 においては、当初は、労働集約的なケルプ (英語版 ) 産業[ 注 57] や漁業 の活況、狭い土地でも収量の見込めるジャガイモ 栽培の導入[ 注 58] 、といった要因もあり、領民およびその子孫は他の土地へ流出するのではなく小作地をより細分化することで居残り、アウター・ヘブリディーズの人口は1755年の13,000人から1811年には24,500人まで急増していた。1810年代に入ると、代替品の輸入やアルカリ の工業生産開始によるケルプの暴落[ 注 59] 、漁業の低迷[ 注 60] も相まって、1815年頃には経済は急速に悪化、ごく狭い小作地で細々とジャガイモを育てるといった「自給農業」に陥ることとなった。18世紀半ばから19世紀半ばにかけてのヘブリディーズ諸島では、以上の様な人口の急増と、それを支えることが出来なくなった経済基盤の毀損により、島民全体が困窮した[ 注 61] 。このような状況下、1820年以降には領主が費用を負担するなど小作人の移民が積極的に推奨され、本格化するようになった[ 注 62] 。一方で、1841年には島を牧羊場にするためにフアーグモール島(Fuaigh Mòr )から7家族46人の島民全員が追い出されるという事例もあった[ 283] [ 284] 。
1846年に始まったハイランド地方におけるジャガイモ飢饉[ 注 63] は、島民の多くが零細小作農( クロフター (英語版 ) )でジャガイモは主食だったこともあり、深刻な結果をもたらし[ 287] 、激しい暴動が頻発した[ 288] 。各所からの支援がある一方で[ 注 64] 、地主の中にも多大な支援を提供した者はおり、スカイ島 ダンヴェガン (英語版 ) 城のマクラウド氏族 (英語版 ) は領民約8,000人分の食糧を購入・供与、アードガー(Ardgour )のマクリーン氏族 (英語版 ) は食糧提供以外にエンドウ豆 ・キャベツ ・ニンジン といったこの地域ではあまり栽培されてこなかった作物を新導入、ルイス島 のジェームズ・マセソン 卿は領地の土地改良に329千ポンド 投入、といった具合であった[ 292] 。翌年、翌々年もジャガイモ胴枯病の被害に襲われ、地主たちは住民を養うために更なる負担を強いられることとなった[ 292] 。このような状況を踏まえ、連合王国 政府は集団移民(出移民)を奨励し始めた[ 292] 。救済活動があった一方で、1851年には、バラ島 、サウス・ウイスト島 、ベンベキュラ島 の地主、クルーニー城(Cluny Castle )のジョン・ゴードン (英語版 ) 大佐による島民最大3,000人への移民強要[ 293] 、及び流刑地として跡地を王国政府に売却打診した事案、インナー・ヘブリディーズ のスカイ島における地主からの島民数千人への立ち退き命令(1840年から1883年にかけて)、アウター・ヘブリディーズのルイス島における地主からの30の村落への立ち退き命令(1887年)といった事案も発生した。
ナピエ委員会 (英語版 ) (1883年発会)による情報収集とそれに基づくクロフター保有地法 (1886年) (英語版 ) の制定[ 注 65] やスコットランド稠密地方局 (英語版 ) (1897年設立)の取り組み[ 注 66] は、社会の安定化の一助となった。1906年7月にはヴァタルサイ島 (英語版 ) の放牧場が不法占拠されるといった事案[ 注 67] が発生するが、1909年にスコットランド稠密地方局がこの島を買収するに至った[ 300] 。
1965年、ハイランド地方および島嶼部の経済振興、インフラ整備支援などを目的に「ハイランド・島嶼地方開発協議会(Highlands and Islands Development Board)」が設立され、アウター・ヘブリディーズでは、ルイス島での組み立て工場や水産加工場、ウイスト諸島 (英語版 ) でのチューリップ栽培や眼鏡製造などで支援を受けた[ 302] 。1991年には同協議会を引き継ぐ形でハイランズ・アイランズ開発公社 (英語版 ) が設立され、各種支援活動を継続している[ 302] 。
1975年の地方自治体再編でアウター・ヘブリディーズ全体が一つの自治体「西部諸島カウンシル(Western Isles Council)」となった[ 303] [ 304] [ 注 68] 。
地域コミュニティによる土地買収、所有に関しては、1920年代よりルイス島ストーノーウェイ では一部に存在していたが、2003年スコットランド土地改革法 (英語版 ) が成立すると、一段と促進されるようになった。2004年にはバラ島9,000エーカー (約36km2 )をスコットランド政府当局が地域コミュニティ移行の前段階として取得、2007年にはルイス島北部53,000エーカー(約214km2 )を、2010年にハリス島西部16,000エーカー(約65km2 )を地域コミュニティが取得した[ 300] 。このような取り組みにより、アウター・ヘブリディーズの人口の3分の2以上は地域コミュニティの所有地に居住するまでになった[ 307] 。
人口
人口推移 年 人口 1755(概算) 13,000 1811(概算) 24,500 1861 36,319 1901 46,172 1911 46,732 1921 44,177 1931 38,986 1939 38,529 1951 35,591 1961 32,609 1971 29,891 1981 30,702 1991 29,600 2001 26,502 2011 27,684 2020(推計) 26,500 Source: [ 309] [ 310]
アウター・ヘブリディーズの人口は、1755年約13,000人、1901年46,172人と、18世紀後半から19世紀にかけて急増した[ 309] 。当時のスコットランド 全体の人口は、1750年代に約127万人だったものが、1811年には約181万人、1901年には約447万人と推移したが、この時期に死亡率が大幅に低下しており(粗死亡率 で1755年頃では人口1,000人当り死亡38人、1861年には同22人)、これを主要因とした人口の急増であった様である[ 311] 。
1911年に46,732人を記録した後は逓減傾向に転じる[ 309] 。1914年から1918年の第一次世界大戦 においては、たとえばルイス島 では健康な成年男子のほぼ全員に当たる6,712人が兵役に就き、そのうち戦死1,151人、帰還途上での事故死200名のほか、約3,000人が帰還後に海外移住を余儀なくされるなど、島々の人口に大きな影響があった[ 312] 。また、有史以来、自給自足を行ってきた島々(特に離島)での生活は、近代的な産業経済には不適で、次第に離島、放棄されるに至った[ 313] 。1901年には140人が住んでいたミングレイ島 (英語版 ) は1912年まで島民のほぼ全員が離島[ 314] 、1881年には77人が住んでいた[ 315] セント・キルダ諸島 は1930年に残っていた住民35人が離島[ 316] 、1891年には135人が住んでいたモナック諸島(Monach Islands )は1943年には全員が離島したほか、多くの島々が無人島となった[ 317] 。
1951年以降の人口も、軍基地があり駐留人員の増減に左右されるベンベキュラ島 (1951年924人→1981年1,988人→2011年1,303人)を除いて、各島で減少しており、2011年の人口はルイス・ハリス島 (英語版 ) のルイス島部分19,406人(1951年23,344人。1951年比17%減)、同ハリス島 (英語版 ) 部分1,625人(1951年3,121人。同比48%減)、ノース・ウイスト島 1,254人(1951年1,890人。同比34%減)、サウス・ウイスト島 1,754人(1951年2,462人。同比29%減)、バラ島 1,174人(1951年1,728人。同比32%減)など、アウター・ヘブリディーズ全体では27,684人(1951年35,591人。同22%減)となっている[ 309] 。
2020年6月の推計値では人口26,500人、16歳未満が16%(スコットランド全体では17%)、16歳以上65歳未満が59%(同65%)、65歳以上が25%(同18%)との年齢構成で、高齢者比率が男性ではスコットランド2位、女性では同1位となっており、スコットランドで最も高齢化が進んでいる地域とされる[ 310] 。その主要因として、「若者が就学や就職のためアウター・ヘブリディーズを離れ、そのまま戻ってこない」といった傾向があることが挙げられている[ 310] 。
スコットランド国立公文書館 (英語版 ) が行った、2018年指標に基づく人口予測によると、アウター・ヘブリディーズの人口は2018年実績26,380人が、2028年予測25,181人(2018年比6%減)、2048年予測22,709人(同16%減)との結果で、少子高齢化の更なる進展を主要因とし、人口減少率はスコットランドで最大との予測結果であった[ 318] 。
経済
伝統的なクロフティング (英語版 ) (小規模兼業小作営農)、漁業 、織物業 (ハリスツイード )のほかは、観光業 が育ちつつあるが、公共部門 への依存度も高く、ハイランズ・アイランズ開発公社 (英語版 ) が経済的「脆弱地域(Fragile Area)」と指定しているように、地域経済の基盤は依然、脆弱かつ不安定な状況である[ 319] 。
クロフティング
ルイス島 の放牧地
ハリス島 (英語版 ) のジャガイモ 畑
クロフティング (英語版 ) とは18世紀以来の小作制度 で、小規模小作地での耕作、地域コミュニティ共同で行う共有地での放牧 のほか、生計維持のため漁業 、手工業 も手掛けるといった営農形態である[ 320] 。アウター・ヘブリディーズでは約3分の2の土地がクロフティングに利用されており、6,300を超えるクロフト(小作地)が280の集落を形成し、アウター・ヘブリディーズにおける社会、生活、文化の基盤となっている[ 321] 。
個々のクロフト(小作地)は平均3ヘクタール ほどで、化学肥料 はほぼ使わずに(ウイスト諸島 (英語版 ) やバラ島 では海藻 や家畜 糞を土壌に鋤き込み肥料として使用)[ 322] 、時折、休耕期を挟みながら、ジャガイモ 、オーツ麦 、ライ麦 などが輪作 されている[ 323] 。放牧 に関しては羊 がほとんど(牛 はごく少数)で、主に肥育用子羊(出荷先で肥育され食肉となる)の状態で出荷され、これがアウター・ヘブリディーズで最も重要な農畜産物 となっている[ 322] 。
営農に関する各種補助金・給付金制度があり、飼育頭数に応じた畜産補助金(Headage Subsidies)、クロフティング営農設備に対する給付金(Crofting Agricultural Grants Scheme)、クロフター向け家屋新築・増改築に対する給付金(Croft House Improvement Grant)などが利用されている[ 324] 。
漁業・養殖業
ルイス島 Breibhig の港
ハリス島 (英語版 ) のサーモン養殖いかだ
全長 10m未満の小型船によるエビ ・カニ 類のカゴ漁や、貝 類の小型底曳き網漁(Dredge fishing)が中心で、ヨーロッパアカザエビ 、ヨーロピアンロブスター 、イタヤガイの仲間 (マゼランツキヒガイ (英語版 ) 、セイヨウイタヤガイ (英語版 ) [ 325] )、ヨーロッパイチョウガニ (英語版 ) 、ガザミ の仲間(Necora puber )の水揚げが多い[ 326] 。これらのエビ・カニ・貝類(Shellfish )で水揚げ量の9割を占め(残りの1割が魚 )[ 324] 、金額換算では、エビ・カニ類で年平均270万スターリング・ポンド 程度(2015年時点)となっている[ 327] 。漁業資源の枯渇を防ぐため、漁期、漁具 に制限があるほか[ 328] 、一部の種では漁獲対象サイズや量的制限も課されている[ 327] [ 329] 。また、2020年からは「沿岸漁業管理の近代化」の一環として、アウター・ヘブリディーズ東方海域にて「入域船数制限」「1船あたりの使用カゴ数及び使用時間制限」「船舶追跡データ収集」の実証実験を行っている[ 330] 。
また、陸地深く湾入した入江や複雑な海岸線は魚介類 の養殖 の適地となっており[ 331] 、アトランティックサーモン(タイセイヨウサケ )、ムール貝 、マガキ の養殖が行われている。アトランティックサーモンは域内45か所で養殖されており[ 331] 、2020年には44,639トン (金額換算約216百万スターリング・ポンド)を生産、スコットランド ではハイランド北西部沿岸地域(North Coast & West Hightlands)に次ぐ規模となっている。貝類に関しては、域内56か所(育成途上45か所、出荷有り11か所)で養殖されており、2021年はムール貝389トン、マガキ383千個(重量換算約31トン)の生産量であった。
織物業(ハリスツイード)
ルイス島 でのハリスツイード 織り
認定製品に付けられる「オーブ&マルチーズ・クロス」マーク
ハリスツイード とは、アウター・ヘブリディーズの住民が古くから各家庭で自給用に織っていた毛織物 を、1840年代後半に当時ハリス島 (英語版 ) を領有していたダンモア伯爵 家の第6代ダンモア伯アレグザンダー・マーレイ の未亡人キャサリン・マーレイ (英語版 ) が地場振興のため産業化したものである。きつい編目で防水性、防寒性、耐久性に富み、色と模様のバリエーションが豊富、手織りからくる朴訥とした風合いといった特徴のある素材で、18世紀初頭には貴族のカントリーウェアなどとして人気を博すようになった。1909年には「ハリスツイード協会」を設立、1910年には「オーブ&マルチーズ・クロス」マークを商標登録し、偽物防止の観点より生地にマークを押印するようになった。1993年にはハリスツイード法(Harris Tweed Act 1993)が制定され、定義の明確化(染色 から紡績 、織り上げ までの全工程をアウター・ヘブリディーズで行う。ピュア・ヴァージン・ウール のみを使用。織り上げは織り手の自宅での手織りに限定)がなされ、同法に基づくハリスツイード・オーソリティ (英語版 ) が、生地および生地を使った製品にスタンプもしくはラベルを添付することにより品質管理、ブランド認定を行っている。2010年当時では、染色および紡績を行う工場「ミル(Mill)」3か所、織り手約160人で生産を担っていた。製品はアメリカ 、ドイツ 、日本 を始めとした全世界に出荷されている。生産量は、1967年は750万メーター 、1985年は520万メーターであったが、2009年には45万メーターに激減した。これは、織り手および従業員200名を抱えていた最大規模の「ミル」の経営者変更(2006年)とその後の経営失敗、工場操業停止(2009年)が主要因であった。その後は年間生産100-150万メーター(織り手220名、関連従事者160名程度)にまで回復している[ 343] 。
観光業
ルイス島 ストーノーウェイ に寄港したクルーズ客船 「クイーン・エリザベス 」(2016年)
2017年のアウター・ヘブリディーズへの来訪者数は約22万人(うち観光客15万人、ビジネス客4万人、親戚・友人訪問3万人)[ 344] 。宿泊施設(930施設ほど)、小売店・飲食店(来訪客向けが4割になる場合もあり)などでの総消費額は約65百万スターリング・ポンド (うち観光客で51百万スターリング・ポンド)に上り、観光産業は地域経済の10-15%程度を担っている[ 344] [ 345] [ 346] 。(Comhairle nan Eilean Siar & VisitScotland 2018 )でのアンケート調査によると、観光客の訪問動機は「田舎の自然豊かな風景」71%、「ずっと行ってみたかった」49%、「日常からの脱出」36%、「一度来て気に入ったから」33%、「歴史と文化」32%などで[ 347] 、平均5.9泊する旅行中の行先・行動は「砂浜」77%、「散歩」68%、「ピクニック」51%、「名所見物」50%、「買い物」50%などとなっている[ 348] 。2021年には、新型コロナウイルス感染症 流行後の観光産業の再生のために、3か年計画「Outlook 2030」を策定、ハイランズ・アイランズ開発公社 (英語版 ) からの支援も得て、「来訪客一人当たり単価の向上」「来訪客満足度および再訪率の向上」「列島内外の移動手段の確保・改善」「観光通年化に向けたオフシーズンの需要創造」「デジタル技術の活用」といった内容に取り組んでいる[ 349] [ 350] 。また、ルイス島 ストーノーウェイ では、クルーズ客船 も接岸できる水深が深い新港湾 ターミナル「ストーノーウェイ・ディープ・ウォーター・ターミナル」(クルーズ客船用の360m岸壁 、大型貨物船用岸壁、貨物フェリー用岸壁など)の建設が予定されており[ 351] 、2024年に完成の予定である[ 352] 。
風力発電
ルイス島 の風力発電機 3基
地域コミュニティが保有する風力発電所 としてはイギリス 最大とされるルイス島 のBeinn Ghrideag風力発電所(発電機 3基、出力9メガワット )が2015年より稼働、年間90万スターリング・ポンド の利益を上げていたが[ 353] 、2020年10月に海底送電ケーブルの不具合が発生、2021年9月にケーブル再敷設が完了するまで発電を停止する事態となった[ 354] [ 355] 。また、ルイス島のストーノーウェイ風力発電所(発電機33基、出力184メガワットの計画)[ 356] など、全体で約500メガワットに上る商用陸上風力発電所が開発中もしくは計画されている[ 357] 。
政治及び地方自治体
西部諸島カウンシル(Comhairle nan Eilean Siar )旗
1889年スコットランド地方行政法 (英語版 ) の成立から1975年まで、アウター・ヘブリディーズの島々のうち、ルイス・ハリス島 (英語版 ) のルイス島 部分はロス・クロマーティ (英語版 ) カウンティ に、同島のハリス島 (英語版 ) 部分及び他の島々はインヴァネスシャー (英語版 ) に属していた[ 305] 。1975年の地方自治体再編で島嶼部がそれぞれ単一の自治体「アイランド・カウンシル(Island Council )」となった際に、アウター・ヘブリディーズ全体は「西部諸島カウンシル(Western Isles Council)」となった[ 303] [ 304] 。1996年の地方自治体制の再編によりスコットランド全土が32のカウンシル・エリア (1層制で自治体議会「カウンシル」を中心とした基礎自治体[ 358] )に改組された際も、「西部諸島カウンシル(Western Isles Council)」の名称のまま単一自治体として維持された[ 303] [ 359] 。1997年にスコットランド地方自治体ゲール語名称法(Local Government (Gaelic Names) (Scotland) Act 1997 )が成立し、地方自治体がゲール語 の名称を採用することが出来るようになると、翌1998年1月、ゲール語名称「Comhairle nan Eilean Siar 」(西部諸島カウンシル)へと公式に改称を行った[ 360] 。2022年5-6月に行われた西部諸島議会選挙及び同補欠選挙(2022 Comhairle nan Eilean Siar election )では29名の議員が選出され(無所属22名、スコットランド国民党 6名、保守党 1名)[ 361] [ 362] [ 363] 、その議員の中から、カウンシル代表(Council Leader)にポール・スティール、議会議長(Council Convener)にケネス・マクラウドが就任した[ 364] 。
庶民院 (イギリス議会 下院)の選挙区に関しては、アウター・ヘブリディーズ全体で「Na h-Eileanan an Iar 選挙区」(定数1名の小選挙区)を構成し[ 365] 、有権者登録数は2021年12月現在で21,304人と、イギリス で有権者数が最も少ない選挙区となっている(イギリス全体平均では71,631人)[ 366] 。2019年イギリス総選挙 ではスコットランド国民党のアンガス・マクニール (英語版 ) が当選し[ 365] 、2005年以来の自身の議席を維持した[ 367] 。また、スコットランド議会 の小選挙区もアウター・ヘブリディーズ全体で「Na h-Eileanan an Iar 選挙区」を構成し、2021年スコットランド議会選挙 (英語版 ) においては、同小選挙区からはスコットランド国民党のアラスデア・アラン (英語版 ) が選出され[ 368] 、2007年以来の自身の議席を維持した[ 369] 。
なお、2014年のスコットランド独立住民投票 においては、アウター・ヘブリディーズでは投票率86.2%、独立反対10,544票(得票率53%)、独立賛成9,195票(得票率47%)の結果であった[ 370] 。
文化
スコットランド・ゲール語
スコットランドの人口・スコットランド・ゲール語話者数推移[ 371] [ 372] [ 373] [ 374]
年
人口
話者数(%)
1755年
1,265,380
289,798(22.9%)
1800年
1,608,420
297,823(18.5%)
1901年
4,472,103
230,806(0 5.2%)
1951年
5,096,415
0 95,447(0 1.9%)
1991年
4,998,567
0 65,978(0 1.3%)
2001年
5,062,011
0 58,652(0 1.2%)
2011年
5,295,403
0 57,602(0 1.1%)
アウター・ヘブリディーズの人口・スコットランド・ゲール語話者数推移[ 372] [ 375]
年
人口
話者数(%)
1991年
29,600
19,546(66.0%)
2001年
26,502
15,723(59.3%)
2011年
27,684
14,092(50.9%)
スコットランド におけるスコットランド・ゲール語 話者割合の分布図(2011年調査)
スコットランド・ゲール語 とは、アイルランド語 、マン島語 と同系統のケルト諸語 ゴイデル語派 に属する言語で、スコットランド には4-5世紀にアイルランド から流入したスコット人 (英語版 ) が持ち込んだとされる。10世紀までにはスコットランドの大部分に広がるが、その後スコットランド東部および中央部ではスコットランド語 が優勢となり、17世紀までにはスコットランド・ゲール語の勢力圏はハイランド地方 及びヘブリディーズ諸島 へと縮小した。1603年のスコットランド王国 ・イングランド王国 の王冠連合 から1707年の連合王国 成立に至る過程で言語の同化も進み、英語 の普及が進む一方、スコットランド・ゲール語の勢力圏はさらに縮小、加えて、1745年ジャコバイト蜂起 失敗後のハイランド地方の氏族社会 の解体、18世紀末から19世紀前半にかけてのハイランド・クリアランス (英語版 ) によるスコットランド・ゲール語話者の大量流出もあり、ほとんどのスコットランド・ゲール語話者コミュニティが崩壊するに至った。20世紀中ごろには衰退のピークにあったが、1970年代より復興の機運が高まり、1984年にはスコットランド・ゲール語教育やスコットランド・ゲール語文化振興を目的とする慈善団体コム・ナ・ガーリック (英語版 ) が設立され活動を開始、2001年には欧州評議会 の「地方言語または少数言語のための欧州憲章 」をイギリス が批准し、スコットランド・ゲール語は「地域少数言語」に認定、2005年にはスコットランド・ゲール語法 (英語版 ) が成立し、スコットランド・ゲール語の維持継承推進団体ボー・ナ・ガーリック (英語版 ) (2003年設立)の法的地位の認定、英語に加えてのスコットランド・ゲール語の公用語化、全国的なスコットランド・ゲール語教育の実践など、スコットランド・ゲール語の維持、継承のための諸政策が公的に行われるようになった。一方で、「話者が高齢化しており若年世代への継承も不十分であるとし、2020年からの今後10年でスコットランド・ゲール話者コミュニティが消滅する可能性がある」とする研究もある状況である[ 385] 。
アウター・ヘブリディーズのスコットランド・ゲール語話者は2011年時点で約14,092人で、地区別ではルイス・ハリス島 (英語版 ) ルイス島 地区9,344人、同島ハリス島 (英語版 ) 地区1,212人、ノース・ウイスト島 887人、サウス・ウイスト島 (含むベンベキュラ島 )1,888人、バラ島 761人となっており、各地区とも減少が続いている[ 386] 。管轄する地方自治体「西部諸島カウンシル(Comhairle nan Eilean Siar )」では、「ゲール語に関する方針(Gaelic Policy)」(2004年改訂)の下、「カウンシル業務および提供サービス等のバイリンガル 化(英語・ゲール語)」、「幼児・初等中等教育を中心にゲール語教育の強化」、「ゲール語文化の振興」、「ゲール語メディアへの支援」、「スコットランド政府や関連各所への働きかけ」などの普及活動に取り組んでいる[ 387] [ 388] 。2020年からは、スコットランド初の試みとして、原則、ゲール語を教授言語とする教育 (英語版 ) が行われるようになった[ 389] 。
ゲール音楽、関連イベント
アウター・ヘブリディーズでは、各家々に集まって音楽、ゲール語 の歌、ダンス、物語、おしゃべりなどを楽しむケイリー (英語版 ) の習慣があり、永く娯楽の中心であった[ 390] 。当地のゲール音楽 (英語版 ) はバグパイプ 、フィドル 、アコーディオン を中心に奏でられ[ 390] 、ヴァタルサイ島 (英語版 ) を生活の拠点するケイリー(ダンス伴奏音楽)・バンド「ザ・ヴァタルサイ・ボーイズ(The Vatersay Boys)」といった演奏者が知られている[ 391] 。ゲール語の歌は、主にダンスの伴奏に用いられるア・カペラ の「マウス・ミュージック(Puirt à beul )」、毛織物 の縮絨[ 注 69] 作業時に歌う「ウォーキング・ソング(Waulking song )」を始めとした各種仕事歌 [ 注 70] 、また長老派教会 においては、伴奏を伴わない「ゲール語の詩篇歌(Gaelic psalm singing )」が歌い継がれている[ 390] [ 393] 。ゲール音楽の歌い手としては、BBCラジオ2・フォーク・アワード (英語版 ) で2回の受賞歴のある[ 注 71] ノース・ウイスト島 出身のジュリー・ファウリス (英語版 ) がよく知られている[ 395] 。パイプ・バンド (英語版 ) (バグパイプとドラム から成る楽隊[ 396] )では、ザ・ルイス・パイプ・バンドが1904年の創立以来100年以上にわたり活動を続けており、スコットランド で最も活動歴の長いバンドの一つとされている[ 397] 。
1981年、バラ島 及びヴァタルサイ島において、言語、文学、音楽、演劇といったゲール文化の祭典「フェシュ・バラ (英語版 ) 」が始まった[ 390] 。このゲール文化の祭典は、スコットランド全土へと広がり、47か所で「フェシュ (英語版 ) 」が開かれる様になった[ 398] [ 399] 。1996年より毎年ルイス島 で開催されるゲール伝統音楽の祭典「ヘブリディアン・ケルト・フェスティバル (英語版 ) 」は、観客が18,000人以上集まるアウター・ヘブリディーズ最大の音楽祭で、経済価値は推定200万スターリング・ポンド に上るとされる[ 400] [ 401] 。
宗教
2011年の国勢調査では、アウター・ヘブリディーズで信仰されている宗教は、キリスト教 73.9%(スコットランド国教会 42.5%、ローマ・カトリック教会 12.3%、その他宗派19.1%)、その他宗教0.8%、無宗教 18.1%などとなっている[ 403] 。キリスト教は600年頃に伝わり[ 注 72] 、以後、アウター・ヘブリディーズの社会、生活の基盤となっている[ 410] 。なお、島によって宗派構成が大きく異なり、北部に位置するルイス・ハリス島 (英語版 ) 、ノース・ウイスト島 ではプロテスタント (長老派 のスコットランド国教会[ 404] [ 405] [ 406] 、スコットランド自由教会 (英語版 ) を初めとする自由教会 系宗派)、南部に位置するサウス・ウイスト島 、バラ島 などはカトリックが主流となっている[ 412] 。なお、2001年国勢調査の分析ではあるが、アウター・ヘブリディーズの「キリスト教その他宗派(スコットランド自由教会などの自由教会系宗派など)」の割合(28.0%)はスコットランドで最も高く、またアウター・ヘブリディーズ南部地域のカトリックの割合(2001年実績でサウス・ウイスト島72%など)はスコットランドで最も高い地域の一つとなっている。
アウター・ヘブリディーズ(特に長老派の多い北部地域)は安息日 を比較的厳格に守ってきており[ 410] 、商用航空便(2002年より)や[ 415] [ 416] フェリー便(2006年より)が日曜日(安息日)運航を始めるにあたり、強い反対運動も巻き起こった[ 417] [ 418] [ 419] [ 420] 。なお、島々を走る路線バスは、2022年現在でも日曜日は運行していない[ 421] 。
イギリス では2004年シビル・パートナーシップ法 (英語版 ) の成立により、同性カップルに婚姻に準じた権利と責任(シビル・パートナーシップ 制度)が法的に認められるようになった[ 422] 。しかしながら、西部諸島カウンシル(Comhairle nan Eilean Siar )は宗教上、道徳上の理由より「シビル・パートナーシップの申請があった場合は登録自体は行うが、通常は登録に付随して行われる登録所での式典の提供を拒否する」としたうえで[ 423] 、「域内での同性カップルのシビル・パートナーシップ締結に関する式典を全面的に禁止する」ことで、域内での同制度の利用を実質的に禁止した[ 424] 。最終的には、2006年に西部諸島カウンシルはこの実質禁止を撤回することとなった[ 425] 。
スポーツ
エリスケイ島 (英語版 ) のサッカー・グラウンド
サウス・ウイスト島 にあるアスカーニッシュ・ゴルフコース
アマチュア のサッカー チームがルイス・ハリス島 (英語版 ) に9チーム、ノース・ウイスト島 以南に6チームあり、夏季を中心に試合が行われている[ 426] [ 427] 。エリスケイ島 (英語版 ) にあるサッカー・グラウンド は丘陵部の緩斜面にあり(グラウンドが傾いている)表面はデコボコで、試合前には放牧されている羊や馬の糞をまず片づけなければならないといったユニークなもので、2015年にはFIFAワールド・フットボール・ミュージアム (英語版 ) で紹介され話題となった[ 427] [ 428] 。
アウター・ヘブリディーズにはゴルフ場 が5か所ある[ 429] 。その中で、サウス・ウイスト島 にあるアスカーニッシュ・ゴルフコースは、「近代ゴルフの父」とも称されるオールド・トム・モリス が1891年に設計したことで知られる[ 430] 。このゴルフコースは第二次世界大戦 前ごろまでは使われていたが、その後放棄されて荒れ果て、その存在はほとんど忘れ去られていた[ 430] 。2005年にその存在が「再発見」されると復元計画が持ち上がり、2008年に復元が完成した[ 430] 。
2001年からは、トレイルランニング 、マウンテンバイク 、シーカヤック などからなるアドベンチャーレース が断続的に開催されている(2001年-2008年「ザ・ヘブリディアン・チャレンジ」[ 431] 、2016年-2019年及び2022年-「ザ・ヘブ -レース・オン・ジ・エッジ-」[ 432] [ 433] )。
2005年には国際アイランドゲームズ協会 に加盟、同年のアイランド・ゲームズ (英語版 ) シェトランド大会 (英語版 ) より参加している[ 434] 。
交通
海上交通
ノース・ウイスト島 ロッホマディ (英語版 ) を出航しスカイ島 へ向かうフェリー
アウター・ヘブリディーズと、スコットランド 本島およびインナー・ヘブリディーズ との間を結ぶ定期フェリー 便が、以下の通り運航されている。
フェリーの発着するスコットランド本島オーバンとマレイグからは鉄道 に連絡し[ 435] [ 437] 、グラスゴー への直通便も設定されている[ 435] [ 注 74] 。
またアウター・ヘブリディーズ内の定期フェリー便は以下の通り運航されている。
航空路線
バラ空港
アウター・ヘブリディーズには、以下の3空港があり、各空港間およびスコットランド本土への定期便が運航されている。
陸上交通
道路状況
諸島北端の集落ルイス島 ポート・オブ・ネス (英語版 ) から諸島南端の有人島ヴァタルサイ島 (英語版 ) まで、2か所のフェリー連絡(ハリス島 (英語版 ) -レヴァーバラ (英語版 ) -バーナレイ島(北) (英語版 ) 間、エリスケイ島 (英語版 ) -バラ島 間)を挟み「南北縦貫路」が通じるほか[ 455] 、諸島全ての有人島はいずれかの島に土手道 や橋で接続されている[ 317] 。この「南北縦貫路」「有人島接続」の道路整備(含むフェリー 連絡)は、1942年の軍用空港建設に絡むベンベキュラ島 サウス・ウイスト島 間の架橋に始まり[ 455] [ 注 75] 、また各有人島の孤立解消による人口維持や経済発展を期するとの観点もあり、1953年にはルイス島グレート・バーネラ島 (英語版 ) 間の架橋、以後順次整備され、2001年のサウス・ウイスト島エリスケイ島間の土手道開通を以って完成した[ 457] [ 317] 。なお、以下の区間がA道路(A road 。主要道)に指定されている[ 458] 。
路線バス
自治体運営の路線バス
地方自治体「西部諸島カウンシル(Comhairle nan Eilean Siar )」運営の「ウエスタン・アイルズ・バス・サービシズ」が路線バス を運行している[ 421] 。フェリー便、航空便との連絡便を含め、以下の様に地域各地への路線を持つ[ 421] 。なお、月曜日から土曜日の運行(日曜日は運休)を基本としている[ 421] [ 459] 。
ルイス島:ストーノーウェイ発着を中心に、9系統を運行[ 460] 。
ハリス島:ターバート発着を中心に、6系統を運行[ 461] 。
ノース・ウイスト島、ベンベキュラ島、サウス・ウイスト島、エリスケイ島:各島をつなぐ主要道を中心に4系統を運行[ 462] 。
バラ島:2系統を運行[ 463] 。
海難事故
イギリス海軍 のアドミラルティ型ヨット「HMY Iolaire(英語版 ) 」
アウター・ヘブリディーズ周辺海域は、冬を中心に嵐になることが多く強い波と風に晒される[ 94] [ 92] 。周辺海域の安全な航海を助けるために、南端のバーナレイ島(南) (英語版 ) バラ岬から北端のバット・オブ・ルイス岬 (英語版 ) まで所々に灯台 が設置されている[ 464] 。しかしながら、これまで数多くの船舶が周辺海域で遭難し、また1900年12月にはフラナン諸島 の灯台より灯台守3人全員が荒天によるものなのか忽然と姿を消してしまうという事件も発生した。この事件は「フラナン諸島の謎」とも呼ばれ、映画「バニシング 」の題材にもなった[ 466] 。
1853年9月28日、リバプール からカナダ ・モントリオール へ向かっていた移民船アニー・ジェーンが、嵐の中、ヴァタルサイ島 (英語版 ) 沖で難破、沈没し、乗員乗客450人のうち348人が犠牲となった[ 467] 。犠牲者はヴァタルサイ島に埋葬され、小さなケアン と碑が建てられている[ 467] 。
1919年1月1日、第一次世界大戦 からの復員兵を乗せたイギリス海軍 のアドミラルティ型ヨット「HMY Iolaire 」が、ルイス島 東岸沖の小岩礁「ビースツ・オブ・ホルム(Beasts of Holm)」に座礁し沈没、205名が犠牲となった[ 469] 。
1941年2月5日、アメリカ合衆国 ニューオーリンズ 他へスコッチ・ウイスキー などを運搬していた貨物船SSポリティシャン (英語版 ) が、アウター・ヘブリディーズ南部のバラ水道 (英語版 ) カルバイ島 (英語版 ) ・エリスケイ島 (英語版 ) 付近で座礁、沈没した[ 470] 。乗員は全員救助されたが、積み荷のスコッチ・ウイスキーが島民らに不法に回収され、大騒動になった[ 470] 。この座礁事故および「不法回収」の顛末は、コンプトン・マッケンジー (英語版 ) の小説『ウイスキー・ガロア (英語版 ) 』のモデルとなり[ 471] 、のちには映画化(1949年「Whisky Galore! (英語版 ) 」、2016年「ウイスキーと2人の花嫁 」)もされた[ 472] [ 473] 。
脚注
注釈
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外部リンク
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