ケチャップ (英 : ketchup 、広東語 : 茄汁 ke2 zap1 、閩南語 /台湾語 : 膎汁 kê-tsiap)とは、野菜 (トマト など)、果実 、キノコ 、または魚介類 などを原料にした調味料 。バナナを使ったバナナケチャップ もある。インドネシア では、さらに、醤油 や、大豆 と小麦粉 、砂糖 などで作る甘い調味料ケチャップマニス なども含め、幅広い調味料を指す。
トマトケチャップ
日本 では「ケチャップ」と言えば通常「トマトケチャップ」のことを指す。
基本的なトマトケチャップの作り方は完熟トマトを加熱して漉し、さらに低温で煮詰めてトマトピューレ を作る。それに、砂糖、塩 、酢 、オールスパイス 、クローブ 、シナモン などを加える。玉ねぎ 、セロリ 、その他の野菜がしばしば加えられる。トマトケチャップは、ホットドッグ 、ソーセージ 、オムレツ 、ハンバーガー 、フライドポテト などの洋食 にかけて使用される。日本やアメリカなどでは酢豚 やエビチリ など、中華料理 に用いられる事も多い。
米国 のトマトケチャップ消費量は4000万リットル で、世界の他の国と比べ抜きん出て多い。一説によれば世界のケチャップ生産量の半分はアメリカの若年層により消費されている換算になる。使用目的は卓上調味料としてがほとんどだが、これを使って調合したバーベキューソース は、醤油を使ったテリヤキ ソースや韓国 風ソースを引き離して今なお絶大な人気があり、アメリカを代表する味との声もある[3] 。
イギリス やオーストラリア などアメリカ以外の多くの国では酢が入っていないトマトケチャップをトマトソース、レッドグレイビー、レッドソースなどの名前で販売している。日本農林規格では可溶性固形分8%以上25%未満をトマトソース、トマトケチャップは25%以上(標準)、30%以上(特級)と分類している。
日本でも好まれる調味料の一つであり、洋食には欠かせない。洋食にはトマトケチャップを加熱調理用に使う調理法が確立されており、チキンライス 、オムライス 、ナポリタン などトマトケチャップを使った日本独自のメニューがある。また、カレーライス のルーや味噌汁 などに少量加えて味に深みを出すことも行われており、マヨネーズ と練り合わせるとオーロラソース 風のドレッシング となる。
容器はアメリカなどでは瓶入りや逆さまにしておくことのできる硬質ビニール容器入りが多いが、日本においてはソフトチューブ入りのものが多い。日本においても1988年 にカゴメ が「ニューケチャップ」の商品名でアメリカの製品同様に硬質ビニール製のものを発売したが、短期間で発売終了となった。消費者にチューブ入りのものが浸透していたこと、日本人 のトマトケチャップの消費量はアメリカ人に比べて少ないことなどが普及に至らなかった理由とされる[4] 。
このほか弁当 用など個包装のパック入り商品もある。ファーストフード店や露店商向けにケチャップを赤色、マスタード を黄色という一対の組み合わせにして容器がセット販売されている場合もあり、マスタードとの組み合わせで容器を折って開封するディスペンパック の形態でも販売されている。
流体 としての特性としては非ニュートン性を持つ非ニュートン流体 (剪断速度に対して粘度 が変わる流体:水やシリコンオイル は剪断速度に対して粘性は一定なのでニュートン流体)であり、急激な圧力を加えたり、かき混ぜると粘性 が下がる[5] [6] 。
トマトケチャップは、家庭や飲食店などで常温で保存されていたものが提供されることもあり、しばしば保存方法について議論されることがある。2017年 、クラフト・ハインツのアメリカ法人は「天然の酸味があるのでハインツのケチャップは戸棚でも保存できますが、製品の品質を保つために開封後は冷蔵庫 へ」との回答を示したが、2023年 、クラフト・ハインツのイギリス法人は「ケチャップは冷蔵庫へ!」との回答を示している[7] 。
歴史
語源
1690年 に出版された北アメリカ の飲食用語辞書 A New Dictionary of the Terms Ancient and Modern of the Canting Crew (英語版 ) に ketchup 、1699年 に出版されたイギリス の飲食用語辞書 BE's Dictionary of the Canting Crew of 1699 に catchup という言葉が収録され、説明として「東インド 奥地のソース(a high East-India Sauce)」と記されていた[8] 。「東インド奥地」つまり現在の中華人民共和国 南部から東南アジア の、魚介類の塩漬けを発酵させた液体調味料(魚醤 )の呼び名が、語源と考えられている。
中国に数百年前[9] からある「ケ・ツィアプ」と呼ばれる調味料が由来だという説が有力である[10] [11] 。これは現在のナンプラー や魚醤のように、魚に塩を加えて発酵させて作ったものだった[10] 。中国南部の福建語 では魚から作ったソース(魚醤)のことを「KE-chiap」と呼び、人々は調味料のような形で料理に使用していた[9] 。これは現在の中国 南部の泉州 周辺や台湾 南部の鹿港 周辺で鮭汁が「コエチアッ」「ケーチアッ」等と呼ばれているのとも符合する。
閩南語 や台湾語 では、小魚やエビ の塩辛 から分離した液体を kechiap、koechiap(鮭汁 ケーチアッ、コエチアッ)と呼び、これがマレー半島 に伝わって kichap、kecap と呼ばれるようになった[注 1] [12] [注 2] [13] 。なお、蕃茄醤や茄汁は、後にアメリカで大量生産されたトマトケチャップに対する意訳語である。
マレーの植民地 で kichap を口にしたイギリス人によりヨーロッパ に伝わると、キノコ、トマト、クルミ などを原料として catchup、catsup と呼ばれた。その後アメリカでトマトケチャップが普及し、現代のアメリカ英語 では ketchup と表記するのが最も一般的となっている。
マレー語の「kicap」とインドネシア語 の kecap は現在、魚醤 以外に大豆 の醗酵調味料である醤油 の意にまで広がっており、むしろ今日では醤油を指す場合の方が多い。インドネシアでは、大豆 と小麦 を発酵させた甘いソースを作っており、ケチャップマニス (甘いケチャップ)と呼ばれている。
そして17世紀ごろ、東西貿易 が盛んになり、アジアからヨーロッパに伝わったと考えられている[10] 。18世紀にイギリス人が「kecap」と呼ぶ調味料に出会うと、しょうゆと同様にローストや揚げ物 といったイギリス料理 に使われるようになった[9] 。
その後ヨーロッパに伝わったケチャップはその後大きく姿を変え、かき やロブスター などの魚介類のほか、マッシュルームやクルミや果実など様々な材料で作ったケチャップが登場した[10] 。1727年にロンドンで出版されたエリザ・スミス の「Compleat Housewife 」というレシピ本には、ワインやスパイスを使ったアンチョビ ベースのケチャップのレシピが記されている[9] 。
英語ではKetchup とCatsup の表記は当たり前のように混在しているが、イギリス英語とアメリカ英語ではKetchup のほうが優勢である[14] 。
イギリスのケチャップ
イギリスのキノコから作ったケチャップ
これが伝わったイギリス ではマッシュルームの保存調味料(en:Mushroom ketchup 、マッシュルームに塩を振り、2・3日置いてからしみ出た汁を香辛料 と煮詰めたもの)が考案され、現在でもパイ やシチュー に使用されている。その他の初期のケチャップはカキ 、アンチョビ 、ロブスター といった魚介類や、クルミ、インゲンマメ 、キュウリ 、ブルーベリー 、クランベリー 、レモン そしてブドウ など植物 素材を材料とするソースが考案され、様々なスパイス が加えられるなどして変化しながらバリエーションを増やしていった[15] 。
トマトケチャップの誕生
やがてイギリスのケチャップがアメリカ にも伝わった。当時ようやくトマト が食用とされ始めるようになっていたが、アメリカで生産されるトマトは酸味が強すぎるなど品質が優れず評判が悪かった。そこで、この売れ残ったトマトを使ったケチャップが考案された[15] 。18~19世紀にアメリカに渡ったフランス系ヨーロッパ人 によって考案されたとされる[10] 。当初は家庭で手作りされていた[10] 。最古のレシピ は1795年 に手書きで記された“Approval Recipes”と“Receipt Book of Sally Bella Dunlop”であり、切ったトマトに塩を振り、2・3日置いてからしみ出した果汁を香辛料と煮詰めたもので、酢 も砂糖も加えていない(現在とは違い、調理中に隠し味 として使ったと考えられている)。トマトベースのケチャップを最初に出版書籍で紹介したのは、フィラデルフィア の医師 であり科学者 でもあったジェームス・ミーズであり、そのレシピが1812年の「Archives of Useful Knowledge, vol. 2」という百科事典に記されている[9] 。その後、19世紀後半になってようやくトマトを砂糖で甘くし、酢で酸味を加え、クローブ・ナツメグ・ジンジャーといったスパイスで味付けした、いわゆる現代の「ケチャップ」が誕生した。
今日、世界最大手のケチャップメーカーであるハインツ は元々は母親のレシピを元にしたホースラディッシュ (西洋ワサビ)のソースを販売すべく設立された会社であった[9] 。ところが事業がうまくいかずに破産し、新しい会社を設立する際に別の目玉商品が必要[9] 、ということで1876年 に品質の良い完熟トマトのみで作った瓶 詰めトマトケチャップを発売した。これが広く普及した結果、ケチャップの代表になったといわれている。
現在ではルーツとされる中国でも、トマトケチャップを使うようになった[10] 。
カナダ のケベック ではリンゴ 、モモ 、パイナップル を原料としたフルーツケチャップをミートパイ にかけて食べている。
日本における歴史
日本のトマトケチャップは、明治期 にアメリカから伝わったものが最初とされる。当時既にトマトケチャップが主流になっていたアメリカから伝わったため、日本では当初からケチャップといえばトマトケチャップだった[10] 。国産製品は1896年 (明治29年)に横浜 で清水與助が創業した清水屋が、1903年 (明治36年)に製造販売を開始したという記録が横浜開港資料館 所蔵の資料に残っており、これが最初の国産ケチャップであると考えられる[16] 。この清水屋ケチャップは、1913年 に南区 で開かれた勧業共進会で銅賞を受賞し、宮内庁御用達 にもなったという。
1908年 (明治41年)には明治屋 がトマトケチャップとマッシュルームケチャップの輸入販売を開始する。
同年にはまた、蟹江一太郎 (カゴメの創業者)がトマトケチャップの製造販売を開始している[4] 。その後トマトケチャップを用いる料理の普及拡大、殺菌方法を変え仕上がりを改善したこと[11] 、積極的な宣伝などが奏功して急速に売り上げを伸ばした。
容器の変遷も消費拡大に大きな役割を果たした。発売当初はビール 瓶に詰められていたため取り出しにくかったが、1957年 に(他社に追随して)カゴメが広口瓶を採用し、スプーンで必要なだけ取り出せるようになったことで4年後には売り上げが2倍近くに増えたという。さらにその後、ポリエチレン をブロー成形 したチューブ 入りのものが発売され、使い勝手の良さから日本における主流となった。
トマトを主原料とするほとんどのケチャップは赤いが、原料を変えればケチャップの色も変わる。福井市 に本社を置く企業「日々是(ひびこれ)」は、金色のケチャップを製品化した。マンゴー や黄色いパプリカ 、レモン を材料としている[17] 。
フィリピンのケチャップ
フィリピンではトマトケチャップよりも、バナナ から作られるバナナケチャップ が主流である。またバナナケチャップの色はトマトケチャップと同様に赤であるが、これはトマトケチャップとは違い着色料 によるものである。
逸話
1981年、レーガン 政権下のアメリカ合衆国議会 は、農務省 に対して連邦公立学校の昼食 基準について学校経費削減プランの提案を求めた。それに応じた農務省の提案の一つは、ケチャップを野菜として分類するというものであった[18] 。この提案は広く嘲笑の対象となり、結果却下された[19] 。
2017年にアメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ がウェルダンに焼いたビーフステーキ にトマトケチャップをかけたところ、外交儀礼 に反すると批判された[20] [21] 。
2021年 、アメリカでは新型コロナウイルス感染症 の拡大により、外食産業 のデリバリー やテイクアウト の利用が増大した結果、トマトケチャップの小分けパックが品不足になる事態が発生した[22] 。
主なメーカー
世界最大手のケチャップメーカーは、大消費地のアメリカにあるクラフト・ハインツ で、世界シェア の約3割(2018年時点)を占める。ユニリーバ (イギリスとオランダ の多国籍企業)、日本のカゴメとキッコーマン(デルモンテアジアを買収) 、ノルウェー のオルクラが続く[23] 。
日本
千葉県
神奈川県
長野県
愛知県
兵庫県
和歌山県
広島県
脚注
注釈
^ 閩南語 や台湾語 の方言字 で、「鮭」もしくは「魚奚(魚偏に奚)」と記し ke または koe と読むのは小魚の塩辛 のことで。魚のサケ とは無関係。
^ 広東語 では魚を使ったソースを、マレー語 の kichap にちなんで gipjap 喼汁 キッチャプ と呼び、トマト(蕃茄)で作るトマトケチャップは kejap 茄汁 ケーチャプ と呼んだり、さらに、濃い汁という意味で gitjap ギッチャプ という言葉もあるが、どれもケチャップの語源ではない。
出典
関連項目
外部リンク
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