ブラッドリー・M・クーン (Bradley M. Kuhn 、1973年 - )はアメリカ合衆国 のフリーソフトウェア運動 における活動家である。
クーンは現在、Software Freedom Conservancy の代表取締役 を務めている[1] 。2010年 まで彼は、Software Freedom Law Center (SFLC)のFLOSS コミュニティ 折衝担当ならびに技術理事 (FLOSS Community Liaison and Technology Director )を務めていた。それ以前、2001年 から2005年 3月 まで彼はフリーソフトウェア財団 (Free Software Foundation; FSF)の執行役員 (Executive director )を務めていた。彼は2010年 3月 までFSFの理事 (Member of board directors )にも選出されていた[2] 。
彼はFSF、SFLC双方にて、GPL のライセンス 施行に関する改善に尽力したことでもっとも有名であり、また、FSFのライセンスリスト の作成、AGPLのAffero条項 (Affero節)の元となった条文の作成などにも貢献している。彼はFLOSS開発における非営利 的構造の側面を長らく支持し続けており、Software Freedom Conservancyでの活動を通じて、この方面への努力を傾けている。
学業ならびに初期の職歴
クーンは、大学準備学校 (英語版 ) (College-preparatory school; カレッジ=プレパラトリー・スクール)のロヨラ・ブレイクフィールド (英語版 ) 校を卒業ののち、ロヨラ大学 (英語版 ) に進学し、1995年 5月 、計算機科学 の学位 を首席 (summa cum laude )で得て卒業した[3] 。クーンは、シンシナティ大学 大学院の計算機科学科に入学した。大学院の指導教官は、ジョン・フランコ(John Franco)[4] だった[5] 。クーンは論文作成のため学生奨学金 をUSENIX より授与されていた[6] 。彼の論文は、Java仮想マシン にPerl を移植 することを一例として、フリーソフトウェア による言語 との動的な相互運用性 をどのように確保するかということを取りあげたものだった[5] [7] 。ラリー・ウォール はクーンの査読 委員(Thesis committee )を務めている。クーンの論文は、スタック ベースの仮想機械 をPerlで利用する場合に際し様々な問題があることを明らかにしたが、のちにこの発見がParrot 仮想機械プロジェクト立ち上げの根拠の一部になっている。
クーンは、Raku RFC(Request for Comments )プロセスにおける活発な参加者であり、同プロセスにおけるRakuのライセンシングに関する筆頭委員(head of perl6-licensing committee )だった[8] 。彼は、ライセンスに関するプロセスに提案された全てのRFCの著作者である[9] [10] [11] 。
クーンは、在学中の1998年 から1999年 にかけて、ウォルナット・ヒルズ・ハイ・スクール (英語版 ) の計算機科学に関する大学単位認可プログラム (Advanced Placement, AP)[注釈 1] において教鞭をふるっている[12] 。彼はこのプログラムにて、生徒に独力でGNU/Linux ベースのラボを構築するよう指導している[13] 。
クーンは大学院在学中にフリーソフトウェア財団 にボランティア として多く関わっており、2000年 1月 には、リチャード・ストールマン の補佐として非常勤 で雇用されている。この間、クーンが職務を遂行する様子がメーリングリスト にて見られる[14] 。FSFにおけるクーンの業務において、初期には、彼はFSFのライセンスリスト ページの作成と管理を提案し、ライセンスの氾濫 に関する問題を提起していた[15] 。
クーンはまたこの間、Cincinnati Linux User Group の初期からの活発なメンバーであり、1998年 には理事 (Board of Directors )を務めており[16] 、 多数のプレゼンテーションを残している[17] 。
非営利活動
クーンは高等学校卒業ののち、計算機科学に関する職歴を歩み始めたが、短い期間プロプライエタリソフトウェア の開発に携わっていたことがあった。彼はこの職業分野においてつらい経験し、このことは彼が非営利団体 での職務にこだわる動機の一つとなった。大学卒業後から大学院在学中またそれ以降、クーンはさらなる職歴を刻むことになったが、全て非営利団体であった[18] 。彼は2000年 後期にはFSFにてフルタイムで雇用されており、2001年 3月 には、執行役員 (Executive director )に就任している。彼はFSFの賛助会員キャンペーン (FSF's Associate Membership campaign )を立ち上げ、FSFのGNU General Public License (GPL)違反是正のための運動をGPLコンプライアンス・ラボ (GPL Compliance Labs )という形で公式な組織として発足させ[19] 、SCO に関する訴訟 に対するFSFの対抗措置を先導し[20] 、AGPLのAffero条項 (Affero clause )の元となる条文を作成、生涯法曹教育 (英語版 ) (Continuing legal education, CLE)プログラムの講義にて、弁護士などの法曹関係者に向けて、GPL についての法的な解説を頻繁に行っていた[21] [22] 。
クーンは2005年 3月 、エベン・モグレン やダニエル・ラヴィチャー (英語版 ) らと共にSoftware Freedom Law Center (SFLC)立ち上げ準備に取りかかるため、FSFを離れ[23] 、のち2006年 4月 には、Software Freedom Conservancy も設立している[24] 。
FSFとSFLC双方において、クーンは米国におけるGPL 違反是正に関し、重要な役割を果たしてきた[25] [26] [27] 。SFLCにおいて、彼は、GPLv3の草稿作成において、エベン・モグレン 、リチャード・ストールマン そしてリチャード・フォンタナ を技術面・法的面双方でサポートし、stet と呼ばれる、GPLv3のコメント受付のためのソフトウェア校正 システムの作成を管理していた[28] [29] 。彼は、GPLv3にAffero条項を導入するよう強く薦めていた。そして、固有のライセンスへのAffero条項の移行の決定がなされたのち、Affero条項を明確に導入したAGPL v3の作成を支援していた。
2010年 までクーンは、Software Freedom Law Center のFLOSS コミュニティ 折衝担当ならびに技術理事 (FLOSS Community Liaison and Technology Director )を務め、関連組織であるSoftware Freedom Conservancy の代表 (President )を務めていた。2010年 彼は、Software Freedom Conservancyの首席取締役 (First Executive Director )に就任した[1] 。
2010年 10月 まで[30] 、クーンはSFLCの首席顧問 (General Counsel )である、カレン・M・サンドラー (Karen M. Sandler)と共に、FLOSS 界における、法律・政治・その他の問題について語るポッドキャスト 、Free as in Freedom (FaiF)[31] の主催を務めていた。以前2年間ほど、クーンとサンドラーは似たようなポッドキャストである、Software Freedom Law Show も主催していた[32] 。
ポーカー
クーンは、熱心なポーカー プレイヤーであり、2002年 から2007年 まで不定期にプロとしての活動を行っていた[33] 。2008年 1月 からは、彼はロイク・ダシャリー (英語版 ) が作成・管理を行い、GPLで配布されているオンライン・ポーカー・システムのPokersource[34] プロジェクトへの貢献を行っている[35] 。
脚注
注釈
出典
^ a b
“Software Freedom Conservancy Appoints Full-Time Executive Director ”. Software Freedom Conservancy (2010年10月4日). 2011年2月26日 閲覧。
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外部リンク